アメリカ移民法ダイジェスト2019年10月
November 6, 2019
ここ数か月は、日本企業に影響を与える大きな変更の発表がありませんでしたが、アメリカ政府が最近の審査の厳しさを裏付けする興味深い統計データーや、全世界の米国大使館におけるブランケットLビザ申請の審査厳格化が懸念される新たな指針が、国務省から出されています。今月は、それらを中心にまとめました。トピックスは、次の通りです。
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2019年度上半期の米国移民局の主な就労ビザの審査状況
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国務省がブランケットLビザ申請の審査基準を明確化
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特急審査サービス費用を値上げへ
1 2019年度上半期(2018年10月から2019年3月)の移民局の審査状況
概要
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2019年度の上半期には、米国移民局に提出されたH-1BビザおよびL-1ビザ請願申請に対する追加証拠の提出要請(Request For Evidence-以下、RFE)および申請却下の割合は、これまでにない最高水準にとどまっています。
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19年度(19年9月30日まで)のRFEと却下率は、昨年の最高値を上回る可能性があります。
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詳細
米国移民局が発表した2019年の上半期の審査状況に関するデータは、いくつかの主要な就労ビザカテゴリーでのRFEおよび却下が高い比率であることを示しています。この傾向は、トランプ政権の大統領令「Buy American, Hire American」の下での雇用ビザの適格性を厳しくするという方向性と一致しています。
H-1Bビザ申請に対する RFEと審査結果
H-1B申請の承認率は、95.7%であった5年前の水準を大きく下回っています。 2019年度上半期のH-1B全体の承認率は83.9%で、2018年度上半期の承認率とほぼ同じですが、2017年度の同時期から10%近く低下しました。
低いH-1B承認率は、高いH-1B RFE率と一致しています。 2019年度上半期の39.6%というH-1B RFE発生率は、2018年度の同期間の比率よりもわずかに高いにすぎませんが、今年度の比率は2017年度の同期間のほぼ2倍です。 H-1B申請がRFEを受けた後に承認を受ける可能性は、2017年度の同期間から11%以上、2015年度から20%以上減少しています。
L-1ビザ申請に対する RFEと審査結果
同様に、米国移民局によって審査されたL-1ビザ申請の承認率は、2016年度の85%の高比率から下がり、数年ぶりの最低水準にあります。 2019年度の第3四半期までの承認率は72%で、これは2018年度同期の78.4%および2017年度同期の81.7%から減少しています。
その間、RFEの率は上がり続けました。2019年度上半期のL-1ビザ申請に対する RFE率は53.7%で、前年同期から9%、2017年度から18%増加しました。RFEが出されたケースでは、L-1承認率が低下しました。 RFE後の承認率は、2019年度第3四半期までの9か月で50.7%まで下がり、前年同期の52.6%から低下しました。 米国移民局によって公表されたデータには、米国領事館のL-1申請に対する認否や、出入国審査官によるLビザ申請審査の認否に関する統計は含まれていません。
米国移民局におけるTNビザとO-1 / O-2ビザの審査傾向
TNとO-1 / O-2のカテゴリでは、承認率とRFE率が同じ方向に向いています。 米国移民局に提出されたTN嘆願申請の全体的な承認率は2019年度上半期は89.5%と、2018年度の同時期の88.6%からわずかに上昇したが、2017年度の92.2%や2015年度の95.1%からは低下しました。 同様に、今年の上半期のTNビザ申請に対する RFE率は前年同期の28.7%から24.9%に低下しましたが、全体的に見れば2015年の17.3%から22%に上昇しています。 RFEを受けた案件の承認率は、2018年度の62.1%および2017年度の66.6%から、2019年度には59.2%に低下しました。尚、米国の空港や陸路の国境地点、または領事館でのTN申請の裁定統計は、今回米国移民局が発表したデータには含まれていません。
2019年度上半期のO-1およびO-2ビザ請願申請に対する承認率は、2018年度の同時期の92.8%から90.9%に低下しました。RFEを受ける比率は26.8%と、昨年の同じ時期から4%上昇しています。また、 2019年度のRFE後の承認率は、2018年度の69%および2017年度の74%から、これまでのところ66.8%まで低下しました。
最新のデータが雇用者にとって何を意味するのか
最新の米国移民局のデータは、現在の移民局の審査環境では、雇用主が就労ビザの申請を行う際にますます困難に直面していることを数字で示していると言えます。ビザの取得にこれまで以上に時間を要するだけでなく、場合によっては却下され当初の赴任計画の変更を強いられる可能性も高まっています。
2 国務省がブランケットLビザ申請の審査基準を明確化
概要
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国務省は領事への新しい指示で、ブランケットLビザ申請者が「明確で説得力のある証拠」によってビザ資格への適格性を示すことを求めるよう注意を促し、申請者が資格要件を満たすか否かすぐに判断できない場合は、申請を却下するよう指示しました。
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近年は、ブランケットLビザの申請は以前より高い審査基準の対象となっていますが、領事に対する新しい国務省のガイダンスにより、さらに厳しい審査が行われ、申請却下率が高くなる可能性があります。
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詳細
国務省は、ブランケットLビザ申請の判定に関するガイドラインを更新し、総領事官に対して「明確で説得力のある証拠」によってLビザ申請者が適格性を証明しなければならないことを指示しました。そして、面接中に申請者が資格要件を満たすことを迅速かつ簡単に判断できなければ、申請を却下するよう指示しました。
雇用主とブランケットLビザ申請者にとってこれが意味すること
これまで、米国大使館・領事館でのブランケットLビザ申請の審査基準は、「明確に承認可能(clearly approvable)」であることを証明しなければならないとされていました。規則上はこの基準は、米国移民局がLビザ請願申請を審査する際に採用する審査基準「証拠の優越性(preponderance of evidence)」よりも高い基準であると考えられています。今回国務省が示した新しいガイドラインは、「明確に承認可能」という従来の基準を変更するものではありませんが、領事へ新たに詳細な指示を出すことで、より頻繁に申請が否認される可能性があります。
雇用主とビザ申請者は、新しいガイドラインに基づくより厳しいブランケットLビザの裁定に備える必要があるでしょう。ルール上、ビザの面接における証明責任は申請する側、つまり申請者にあります。申請者は、審査官に対し自分が如何に申請要件を満たしているかを説明し、証明する義務を負います。今回の新しいガイドラインの発表を受け、拒否のリスクを最小限に抑えるために、申請者は職歴、スキル、職務上の責任を明確かつ簡潔な言葉で説明できるように準備する必要があると言えるでしょう。
3 米国移民局は、12月2日に特急審査サービス(Premium Processing Service)用の費用の値上げを発表しました
概要
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特急審査用の申請料金が、12月2日から現在の1,410ドルから1,440ドルに値上がります。
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変更の発効日以降の消印の申請は、新しい申請料の対象になります。
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米国移民局は当初、新しい料金の効力発効を11月29日と発表しましたが、その後12月2日に修正しました。
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状況
米国移民局に提出される特定の就労ビザ申請や雇用ベースの移民申請書では、追加費用を支払うことで、15暦日以内に審査結果(承認、拒否、またはさらなる証拠の要求)を要求することができます。 国土安全保障省によると、2001年6月に初めて1,000ドルで実施されて以降、インフレ率が44.13%増加したことを反映して、料金が引き上げられています。特急審査サービスの手数料は、2018年10月に1,225ドルから1410ドルに値上げされています。それ以前は、2010年以降、料金は1,225ドルのままでした。
これが意味すること
12月2日以降に受理される雇用ベースの就労ビザ・移民ビザ申請に特急審査サービスの適用を希望する際には、申請料が高くなることにご留意ください。雇用主は、ビザ申請関連費用の予算を立てる際に、特急審査サービス費用の増加を考慮する必要があります。
さらに、申請料の値上げを控え、今月から来月にかけては特急審査サービスの要求を伴う駆け込み申請が増える可能性があります。その結果、移民局側で増加する申請を処理するため、特急審査要求を伴う請願申請に対し追加証拠の提出要請(Request For Evidence, RFE)が増える可能性があります[i]。
[i] 筆者注:特急審査サービスを伴う申請は、移民局15歴日で審査を終えなければなりません。それができなければ、サービス料を払い戻す必要があります。ここで危惧されているのは、増加する申請数に対応するため、一旦企業へ追加証拠の提出要請をすることで時間を稼ぎ、審査官の手持ちの申請数を調整する可能性があるという意味です。