アメリカ移民法ダイジェスト2019年4月号
May 3, 2019
今月の移民法ダイジェストでは、ビザウエーバープログラムやBビザで渡米する出張者に関する、ホワイトハウスが発表した新しい方針を中心に取り上げます。
今年初め、大統領がメキシコとの国境に建設を希望する壁の建設費用を巡り民主党と対立し、連邦政府の一部機関が1か月近く閉鎖されたことは記憶に新しいことと思います。その際、壁建設に反対する議員が挙げていた理由に、アメリカに不法滞在する半数以上の外国人は、ビザウエーバーやBビザ、または他の非移民ビザで当初は合法的に入国し、失効後もそのまま滞在しているという議論です。この統計は、何年も前から様々なメディアで引用されてきました。その反論意見を踏まえて(か、どうかはわかりませんが)、ホワイトハウスが今回発表した声明は、合法的に入国しようとする外国人に対し、ビザの目的にあった活動をする予定であるか、期限内に出国するかなどを、これまで以上にきちんと審査し、そのような外国人の超過滞在を減らすような施策を考えるよう指示を出しています。この指示を受け、政府の関係省庁がどのような奨励策を出すのかはわかりませんが、そのような傾向に対し、企業としてどのような対策を立てるのかが問われてくると思います。出張者の入国審査への厳格化は、アメリカに限る傾向ではありません。中国をはじめ、色々な国が出張者の出入国や滞在期間を管理し、審査を厳しくしていますので、決してトランプ政権に限ることではないこともご認識いただくべきでしょう。
また、カナダ人のLビザ保持者が、米国・カナダの国境でLビザの延長申請を拒否される事例が多発しています。カナダ人社員を雇用する企業にとっては、この点も注意が必要です。
1. ホワイトハウスが政府関連機関に対し、B-1/B-2ビザの
概要
大統領が政府機関へ宛てた新たなメモによれば、B-1/B-2ビザ保持者やビザウエーバーでの渡米者の超過滞在(オーバーステイ)を減らす為の方策を講じるよう、関連政府機関へ指示しました。このメモは、非移民ビザ保持者の超過滞在率が10%を越える国々対し、法律を執行する新たな施策を提案するよう求めています。このメモが、B-1/B-2ビザ保持者とビザウエーバーでの渡米者に対し直ぐに影響を与えるものではありませんが、将来的に影響を与える可能性があります。
問題
大統領が発表した新たなメモは、国務省と国土安全保障省に対し、B-1/B-2ビザ保持者とビザウエーバープログラムを利用した渡米者が、予め認められた滞在期間を超えてアメリカに滞在する超過滞在を減らす方法を考案すると共に、他の非移民ビザ保持者の超過滞在も減らすべく何らかの対応をとるよう命じました。具体的には、次のような方策を講じるよう命じています。
ビザウエーバープログラムについて:国土安全保障省に対し、180日以内に、同プログラム利用者の超過滞在を減らす為に継続的に行っている方策について大統領へ報告すると共に、法律執行を更に強化する推奨策を提供するよう求めました。
Bビザ保持者の超過滞在率が10%を越える国々対する法律の執行:国務省に対し、国土安全保障省と法務省と協力し、国土安全保障省が発表した統計資料(https://www.dhs.gov/sites/default/files/publications/19_0417_fy18-entry-...)の中でBビザ保持者の超過滞在率が10%を超える国々に対し、超過滞在を減らす為の奨励案を大統領へ提出するよう求めました[1]。超過滞在者が多いこれらの国々に対し講じる対策としては、現行Bビザ保持者の渡米禁止や一時的な中断、アメリカ滞在期間の制限、またビザ申請や入国審査において追加書類の提出や携行を求めることなどが考えられます。この奨励策は、120日以内の提出が求められています。
非移民ビザ保持者の超過滞在防止策:国務省と国土安全保障省に対し、全ての非移民ビザ保持者の超過滞在を減らす為の方策を今すぐ講じるよう命じました。具体的には、国務省と国土安全保障省に対し、非移民ビザ保持者の移民法へのコンプライアンスを強化する施策として、アメリカ入国時に期限内出国の保証金を支払わせる方法を構築し、120日以内に現況に関するレポートを提出するよう求めています。
このメモが企業や外国籍社員に対し持つ意味とは
このメモが、B-1/B-2ビザやビザウエーバープログラム利用者に、直ぐに影響を与えるものではありませんが、これは現政権が焦点を当て続けている訪問者ビザへのコンプライアンスと法律執行強化の一環です。現政権は、アメリカ国内にいながら在留資格の延長を求める特定の外国人に対し、生態認証情報の採取を義務付けたり、新たな法律の施行を行ったりしています。また、国土安全保障省は今年の後半に、Bビザで許可される活動内容に制限を設ける規則の変更を計画しています。Bビザやビザウエーバープログラムを利用した訪問者の審査の厳格化や超過滞在管理の強化は、アメリカへの出張者の移民法へのコンプライアンスの重要性を意味していますが、出張者の管理がきちんとできている日本企業は未だ少数であるのが現実です。誰が、いつ、アメリカのどの都市に、何のために、どのぐらいの期間出張しているのか、全て把握している日本企業はほとんど無く、また出張を許可する手続きの中で、その出張業務内容をアメリカの移民法に照らし合わせた場合、ビザウエーバーやB-1ビザで許可された内容であることの確認作業が盛り込まれている企業も、ほとんど無いのが現状です。非移民ビザでアメリカに滞在する外国人は、出張者を含めアメリカ入国時にI-94の発給を受けますが、正しい情報が記載されていることや、期日までにアメリカを出国することを確認するようにするのは、必要最低限の取り組みです。今回発表された政府の方針は、出張者・旅行者の入国審査の厳格化やBビザ申請の更なる厳格化につながる可能性もあり、日本企業に対し出張手続きの包括的な見直しを迫るものと考えるべきでしょう。
当事務所では、今後のこの点に関する政府からの発表内容を注視してまいります。
2. 米国‐カナダ国境における、カナダ人のLビザ更新申請が困難に直面
概要
米国‐カナダ間の陸路の多くの国境地点やカナダ国内の国際空港にあるアメリカ政府のPre-flight Inspectionが、カナダ人のLビザ延長申請を拒否する事例が多発しています[2]。理由は、延長を希望する場合は、まず米国移民局から許可を取得する必要があるというものです。今後、Lビザ延長を計画するカナダ人は、選択肢について移民法の弁護士へご相談されることを強くお勧めします。
問題点
最近になり、米国・カナダ間の多くの国境や空港のPre-Flight Inspectionに於いて、米国国土安全保障省で国境の警備を司るU.S. Customs and Border Protection (CBP)の審査官が、Lビザ在留資格の延長を拒否する事例が多発しています。CBPは、NAFTA協定の規則上これまで認められ、また長年の慣行として許していた方針を何の予告も無く変更し、Lビザの延長を希望するカナダ人は、先ず移民局から許可を取得し、それに基づいて国境で申請をしなければならない方針に変わっていることが確認されました。トロント、オタワ、そしてバンクーバーの国際空港のPre-flight Inspection及び、ワシントン州ブレイン(Blaine)の国境は、カナダ人の延長申請を受け付けないことを表明しています。また、カナダ西部の陸路の国境地点や空港でも、Lビザ延長申請の拒否が報告されています。拒否の対象になっている申請は、ブランケットプログラムに基づくLビザ延長申請も含まれています。
今回の傾向は、カナダ人の初回のLビザ申請には影響を及ぼしていません。これらの申請は、これまで通り米国・カナダ間の国境で申請をすることができます。
今回の方針が持つ意味とは:
御社のカナダ人社員の方でLビザの延長を計画する方は、御社の案件を担当する当事務所のスタッフへ選択肢についてご相談ください。
今後国境で延長申請をするカナダ人のLビザ保持者の方は、現在のLビザステイタスの残余期間が暫く残っている状態で、国境での申請を試みることをお勧めします。そうすることで、仮に国境での申請を否認されても、現行Lビザがキャンセルされない限りは、そのビザでアメリカへ戻り、アメリカの雇用主から移民局への延長申請のサポートを得ることができます。
一方、Lビザの期限が迫っているカナダ人の方は、国境での申請が賢明な選択であるか否かを検討すべきでしょう。もし申請が否認され、その時点で既にビザが失効していたり、失効日が迫っているため入国を拒否されれば、移民局の認可が下りるまでアメリカへ再入国できなくなります。
ここ数週間の国境でのLビザ申請の否認が増加に対し、先日CBPはアメリカ移民法弁護士協会に対し漸く方針の変更を認めました。今回の方針変更は、NAFTAの規則に照らし合わせても規則違反であると考えられていますが、政府側の方針変更や裁判所による違法判断がない限り、この新しい方針でカナダ人のLビザ延長申請は審査されることになります。
3. OPTの学生やH-1Bビザへ移行申請中の外国人学生の海外渡航における注意点
概要
F-1ビザ保持者で、現在Optional Practical Training(OPT)の申請中であったり、OPTで就労していたり、また現在H-1Bビザへ資格変更中の学生には、海外渡航に伴うリスクを周知させてください。その学生が置かれている状況次第では、海外渡航はFビザステイタスや、在留資格変更手続き、またFビザでの再入国に影響を与える可能性があります。
問題点
F-1ビザ保持者で、現在Optional Practical Training(OPT)の申請中であったり、OPTで就労していたり、また現在H-1Bビザへ資格変更中の学生は、海外渡航に関する要件とそのリスクについて正確な情報を認識するようにしてください。学生の現在の状況が、就学継続中であるのか、卒業し60日の猶予期間中であるのか、OPT期間中であるのか、『Cap Gap』と呼ばれるOPTは既に失効しているがH-1Bビザ申請が受理されOPTが特別に9月末日まで延長されている状態であるかなど、各学生が置かれているそれぞれの状況により対応策やリスク、注意点が異なります。当事務所では、そのような学生に対し今年も『よくある質問集』を編集しました。下記のサイトから閲覧・ダウンロードができますので、どうかご参照ください。
移民法ダイジェストは、情報の提供を目的としたニュースレターです。個別案件などに対する、法的なアドバイスではありません。今回の内容に関してご質問がございましたら、御社の案件を担当する当事務所の職員へお気軽にご相談ください。
[1] 左記の政府資料によれば、日本人のB-1/B-2/Visa Waiver Program利用者の昨年度の超過滞在比率は、0.16%でした。因みに、学生ビザを除いた非移民ビザ(LビザやEビザ、H-1Bビザ他)を持つ日本人の超過滞在比率は、同資料によれば0.5%でした。
[2] カナダ人は、Eビザを除きパスポートに査証(ビザスタンプ)の押印を受ける必要がありません。ビザスタンプの取得が免除されているため、就労ビザを取得する際には米国・カナダ間の国境で必要書類を提出しその場で審査を受けます。認可されれば、アメリカ入国を許され、オンライン上でビザステイタスが記載されたI-94が発行されます。従い、在留資格(I-94)を延長する場合も、これまでは一旦カナダへ出国し、延長申請書類を持参して国境で審査を受け、許可されればそれで延長手続きが終わることになっていました。