アメリカ移民法ダイジェスト 2021年6月
July 9, 2021
1. 米国移民局は、追加証拠要請(Request For Evidence – RFE)、却下意図の通知(Notice of Intent to Deny – NOID)、不服申し立て他の通知に対する回答期限を延長するCOVID-19便宜措置の効力を、2021年9月30日まで延長
概要:
- COVID-19緊急事態への対応として、米国移民局(USCIS)は60日間の期限延長施策を2021年9月30日まで再度延長しました
- 雇用者と申請対象の外国人社員は、追加証拠の要求、拒否または取り消す意図の通知、EB-5地域投資センターを終了する意図の通知、および2020年3月1日から2021年9月30日まで出されたその他の特定の通知に応答するための回答期間を、通常政府が指定する期限からさらに60日間延長します。
- 雇用主と外国人は、2020年3月1日から2021年9月30日までの間に発行されたUSCISの却下判断について、政府に対し再考の申し立てをしたり、控訴するための期限も、移民局の審査結果発表日から30日ではなく60日に延期されます。
詳細:
米国移民局は、COVID-19パンデミックへの継続的な対応として、同局が下す様々な判断への対応期限を60日間の期限延長する暫定政策を、更に2021年9月30日まで延長します。この便宜的措置は、次のような対応をする場合に引き続き利用できます。
- 追加証拠の要求(RFE)、
- 却下の意思の通知(NOID)、
- 取り消す意思の通知(NOIR)、
- EB-5地域投資センター(NOIT)を終了する意向の通知、および撤回する意向の通知、
- USCISの不利な決定の再考を求めたり控訴の要請、および
- フォームN-336、帰化手続の提出日の要件に関する決定に関する聴聞会の開催要請
COVID-19パンデミックによる悪影響を最小限に抑えるための手段として2020年3月に発表されたこの便宜措置は、当初2020年9月に終了するとされていましたが、何度か延長されています。
回答期限延長の詳細
2020年3月1日から2021年9月30日までの間にRFE、NOID、NOIR、NOIT、またはNotice of Intent to Rescindを受け取った雇用者や社員は、移民局へ回答を提出するために、当初の回答期限からさらに60暦日の猶予が与えられます。
2020年3月1日から2021年9月30日までの間に出された移民局の不利益な決定(例:却下判断)に対しては、政府の判断日から60日間(現行規則ではほとんどのケースで30日間)、控訴または再考の申し立て、または聴聞請求を行うことができます。
雇用主と外国人にとって、この便宜策延長の持つ意味
今回の期限延長により、米国の企業が社員に対し依然リモート勤務を強いている状況下で、移民局への問い合わせや異議申し立てに対応しなければならないという雇用者や社員へのプレッシャーが引き続き軽減されることが期待されます。
なお、この便宜策は、在留期間の延長や雇用許可申請には影響しません。これらの申請は引き続き期限に備えて適時に行う必要があります。
2. 米国-カナダおよび米国-メキシコの陸路国境規制を7月21日まで延長
米国-カナダおよび米国-メキシコの陸路での必須な旅行のみを許可するCBPの国境規制が、2021年7月21日まで延長されます。この制限は空路での入国には影響しません。
必要不可欠な旅行とは、米国市民、合法的永住者、および米国での就労を目的とした外国人の旅行などを指します。
ビザ免除者やその他のビジネス旅行者は、国境での審査が厳しくなる可能性があります。
陸路での「必要でない旅行」は許可されていません。これには、観光やレクリエーションとしての旅行が含まれます。
焦点:
米国税関・国境警備局(CBP)は、連邦官報に掲載される一連の通知を通じ、2021年7月21日まで、米国の陸路国境を越える「不要な」旅行およびカナダ・メキシコとのフェリー旅行の禁止を継続して実施します。この制限は、6月21日に失効する予定でした。
COVID-19の発生を受けて2020年3月21日に開始された南北国境を越えた不要不急の渡航禁止措置は、当初2020年4月に失効する予定でしたが、1ヶ月単位で継続的に延長されています。この政策は、COVID緊急事態の状況に応じて、7月に再び延長の可能性が検討されると思われます。なお、今回の制限は飛行機によるカナダ・メキシコからのアメリカ入国には影響しません。
詳細:
CBPは、観光、ギャンブル、文化的なイベントへの参加など、観光やレクリエーションを目的とした旅行を「非必須」の旅行と定義しています。
この制限の下で、アメリカへ入国できる「必要不可欠な」旅行には、以下のものが含まれますが、これらに限定されません。
- 米国市民および合法的永住者の米国への帰郷
- 合法的な国境を越えた貿易のための旅行(例:貨物を運ぶトラック運転手)
- 米国内での就労を目的とした渡航
- 医療目的の旅行(例:米国で治療を受けるため)
- 教育機関に通うための渡航
- 緊急対応および公衆衛生を目的とした旅行(例:COVID-19やその他の緊急事態に対応する政府の取り組みを支援するために、政府関係者や緊急対応者が米国に入国する場合など)
- 米軍のメンバー、およびその配偶者や子供が米国に戻るための旅行
- CBPがケースバイケースで決定するその他の旅行形態
貿易・業務渡航の場合は、国境での追加審査が必要となる場合があります。実際には、国境規制が始まって以来、ビジネス旅行者に対する扱いには一貫性がありませんでした。
雇用者と外国人にとっての今回の延長判断が持つ意味
現行のガイダンスでは、米国市民、合法的永住者、および外国人の商用目的の渡航は、国境規制の期間中、カナダとメキシコの陸路でも許可されることになっています。しかし、CBP職員は入国者を検査する幅広い裁量権を持っているため、外国人は入国審査において米国での雇用やビジネス活動について詳細な質問を受けることが予想されますのでご注意ください。
3. 2022年度H-1B発給枠対象の申請に関する統計によると、抽選の当選率が大幅に低下
概要:
- 2022年度のH-1B発給枠申請の為に、アメリカの雇用者が今年3月に発給枠登録抽選へ応募した数は308,613で、昨年度と比べ12%増加しました。
- 移民局は、H-1B枠を満たすために87,500件を当選としましたが、これは抽選に応募した全体の28%にあたります。昨年度の申請シーズンでは、移民局は登録者全体の45%に当たる124,415件を当選としました。今年は、85,000件という上限に対してより多くの登録を受けたことに加え、上限に達するために必要な登録数を決定するために使用する計算式を変更しました。
- 移民局は、2021年6月30日まで、当選者のH-1B発給枠申請を受け付けました。尚、政府が昨年同様に、発給枠への応募者に対し2回目の抽選を行うかどうかはまだわかっていません。
詳細:
2022年度の発給枠対象のH-1Bビザ申請の登録期間中、雇用主が発給枠の抽選に応募した数は308,613件で、2021年度の申請シーズンに比べて12%増加しました。しかし、登録件数が増加したにもかかわらず、米国移民局が選んだ件数は2021年度に比べてはるかに少なく、年間割当数の85,000件を満たすために当選としたのはわずか87,500件で、登録件数全体の28%にとどまりました。この28%という当選率は、前年の274,237件の登録から124,415件(45%)が当選扱いとなったことに比べて大幅に低くなっています。
通常移民局は、発給枠対象のH-1Bビザ申請が最終的に拒否、却下、撤回、取り消しされる場合を想定し、H-1Bの年間割当数(85,000)よりも多く当選させています。しかし、2022年度に向けて、移民局は年間の上限を達成するために必要な申請数を決定する方法を変更したため、当選率が低くなっています。
2022年度に2回目の抽選が行われる可能性はあるか?
昨年度(2021年度)の発給枠対象のH-1Bビザ申請シーズンにおいて、移民局は第1回の抽選では上限に達するだけの請願書提出数が得られなかったため、2回目の抽選を実施しました。今年、2回目の抽選を行う必要があるかどうかはまだ決定していませんが、申請期間終了の6月30日までに受理した2022年度の請願書の数が不足した場合、2回目の抽選を行う可能性があります。
4. 米国移民局が、行政上の障害を軽減するための方針を改訂
概要:
- 米国移民局(USCIS)は、ビザ申請を含めた移民法上の恩恵を受ける際の行政上の障害を軽減することを目的とした一連の方針改訂を発表し、即日発効となりました
- 2013年の方針に戻り、USCIS職員は、さらなる証拠の提出を求めることで申請者の適格性を証明できるケースについては、直ぐに否認するのではなく、まず追加証拠の請求(Request for Evidence - RFE)または拒否の意思表示(Notice of Intent to Deny - NOID)を発行するように指示されています。
- ほとんどのAdjusted of Status申請者に対する雇用許可証(Employment Authorization Document‐EAD)の有効期限は、従来の1年から2年に変更されました。
- 甚大な経済的損失のために緊急で迅速な審査が必要な申請について、緊急性の審査基準の詳細を示しています。
詳細:
U.S. Citizenship and Immigration Services (USCIS)は、米国のビザ取得などの移民給付を受ける資格のある人々の負担を軽減することを目的とした、一連の施策の改訂を発表しました。この改訂は、2021年2月2日にバイデン大統領が連邦政府機関に対して、移民規制、政策、ガイダンスの見直しを行い、合法的な移民を促進するという政権の優先事項に対する障害を排除するよう指示した大統領令に基づくものです。
今回の新政策ガイダンスでは、USCISによるRFEおよびNOIDの発行、Adjustment of Status申請者(グリーンカード申請の工程の1つ)の雇用許可証(EAD)の有効期間、移民給付申請の迅速化基準などが取り上げられています。
RFEとNOIDに関する2013年の方針に戻る
USCISの新しいガイダンスでは、最初に証拠が不十分な状態で提出された申請に対しては、追加の証拠を提出しても移民給付の資格を立証できる可能性がない場合を除き、拒否ではなく、RFEまたはNOIDを発行するように担当官へ指示をしている、2013年の方針が復活しています。この新しい方針は、申請提出時点での証拠が不足していれば、ビザ申請を即却下することを審査官に認めていた2018年の方針に代わるものです。前者の方針を復活させるにあたりUSCISは、企業や外国人には一般的に完全な申請書を再提出する必要なく、追加の証拠を提出することで申請時の当初のミスや意図しない不記載を修正する機会が与えられるべきだとしています。
ほとんどのAdjustment of Status申請者に2年間のEADを発行
USCISは、ほとんどのAdjustment of Status申請者のEAD(雇用許可証)の有効期間を、従来の1年間から最長2年間に延長します。この延長は、雇用ベースおよび家族ベースのグリーンカード申請者を含む、移民国籍法第245条に基づいてAdjustment of Status申請を行うすべての申請者に適用されます。なお、同Adjustment of Status申請に伴い取得ができる海外渡航許可(Advance Parole)の有効期限については言及しておらず、現在も1年に制限されています。
政府へ申請の迅速審査を要請する際の基準の明確化
USCISは、新しいガイダンスの中で、深刻な経済的損失を理由に移民案件が迅速な処理を受けることができるかどうかの基準を明確にしました。改訂されたポリシーマニュアルによると、企業が倒産の危機に瀕している、重要な契約を失っている、従業員を解雇しなければならないなどの場合には、案件の迅速な審査を求める企業は深刻な経済的損失を証明できるとしています。また、個人の場合は、失業を証明することで深刻な経済的損失を証明することができますが、他のやむを得ない要因がなく、雇用許可を取得する必要性だけでは、迅速な処理を受けることはできません。
また、新ガイダンスでは、特定の非営利団体が、求める移民法上のベネフィットに対してプレミアム・プロセッシング(特急審査サービス)が可能な場合でも、あえて同サービスを利用せずに迅速なサービスを要請できるようになりました。その他のケースでは、プレミアム・プロセッシングが提供されている場合、一般的には迅速なサービスを受けることはできません。
雇用主と外国人にとっての新ガイダンスの意味
新ガイダンスは、これまでの制限的な審査方針を改善するものですが、一部の分野では全面的な変更にはなりません。RFE/NOIDポリシーが復活したことにより、企業や外国人がビザ申請などで審査を受けずにいきなり否認されることは少なくなるでしょう。しかし、移民局の審査官は、申請資格が確立されていないと判断した場合、追加証拠を要求する権限を常に持っていることから、RFEやNOIDの数は大幅には減少しないかもしれません。最近移民局は、申請を審査する際に過去に移民局が下した判断を尊重する方針を復活させたことは、この分野でより大きな影響を与える可能性がありますが、移民局内で政策変更が実際に実施されるようになるのは、政策の発表よりも遅れる可能性があります。
新しいEADのポリシーに基づいて2年間のEADを付与された雇用・家族ベースのAdjusting of Status申請者は、就労許可の空白期間が少なくなったり、短くなったりする可能性があります。ただし、海外渡航許可証(Advance Parole)の有効期間は今のところ従来の1年のままであるため、Adjustment of Status申請が審査中の間は、渡航許可は毎年更新する必要があります。
最後に、審査の迅速化の基準をさらに明確にすることで、企業や外国人が、USCISが自社の要請をどう判断するを知る為に役立つと思われますが、USCISは今後もケースバイケースで迅速化を検討していきます。認められるか否かの判断は、USCISの独自の裁量に委ねられます。一般的に、このような裁量ベースの審査迅速化の許可取得は困難です。