2021年10月 アメリカ移民法ダイジェス
November 8, 2021
1. 11月8日から、コロナウイルス用ワクチンを完全接種した外国人に対して、カナダ/メキシコの陸路国境を越える不要・不急な渡航を許可
概要:
-
-
- 2021年11月8日より、国土安全保障省(DHS)は、承認されたコロナウイルス用のワクチンを完全に接種し、政府が認める接種証明書を持つ外国人が、観光や個人的な訪問などの「不要・不急」の活動のために、カナダまたはメキシコから陸路またはフェリーで米国に入国することを許可します。尚、18歳未満の子供は、この新しいワクチン要件が免除されます。
- ワクチンを接種していない外国人が陸路やフェリーで米国に入国する場合、コロナウイルス対応に基づく入国禁止措置は少なくとも2022年1月21日まで適用されます。
- 仕事や出張などの重要な目的のために陸路国境やフェリーターミナルから入国する外国人は、2022年1月のある時点までワクチン接種義務の対象とはなりません。
-
焦点:
2021年11月8日より、国土安全保障省(DHS)は、承認されたCOVID-19ワクチンを完全に接種している場合に限り、外国人が「不要・不急な旅行」のためにカナダやメキシコの陸路国境やフェリーターミナルを経由して米国に入国することを認めます。観光や個人的な訪問を含む不要・不急な外国人の渡米は、コロナウイルスの緊急事態のために2020年3月から禁止されています。新政策では、完全にワクチンを接種した外国人に対してのみこの制限が解除されます。ワクチンを接種していない外国人は、少なくとも2022年1月21日まで、不要不急の陸路での渡米は禁じられています。 ただし、18歳未満の子供については、11月8日に必要不可欠な渡航を開始するためにワクチンを接種する必要はありません。また、米国の永住権保持者は、陸路・フェリーでのワクチン接種の対象外となります。
DHSによれば、2022年1月中に、出張や就労などの「必須」の目的で陸路で渡米する外国人にも、国境でのワクチン接種の義務を拡大する予定です。それまでは、出張や就労のために陸路国境やフェリーで米国に入国しようとする外国人は、入国のためのワクチン接種は必要ありません。また、「必要不可欠な旅行」には、就学を目的とした渡米、医療目的の渡米、その他、米国の国境警備隊がケースバイケースで判断する目的の渡米も含まれます。
不要不急の旅行に対するワクチン要件の実施について:
予想された通り、DHSは陸路でカナダ・メキシコからアメリカへ国する場合の新しいワクチン接種方針の第一段階を、同じく11月8日に発効する海外からのアメリカ入国に伴う新たなワクチン接種要件と併せて実施する予定です。DHSが国境旅行政策で認められているワクチンと接種証明書類の要件は、次のとおりです。
-
-
- 受け入れ可能なワクチンは、米国疾病管理予防センター(CDC)のウェブサイトに掲載されているものです。2021年10月29日現在、受け入れられるワクチンは、Janssen/Johnson & Johnson、Pfizer-BioNTech、Moderna、AstraZeneca、Covishield、BIBP/Sinopharm、Sinovacのワクチンです。Janssen/Johnson & Johnsonを除くすべてのワクチンは、2回接種となっています。
- 一連のワクチンの最終接種から14日を経過した場合のみ、「ワクチンの完全接種者」とみなされます。ただし、両方のワクチンが承認リストに掲載されており、17日以上の間隔を空けて接種された場合は、「混合ワクチン」も認められます。
- コロナウイルス用ワクチン接種の証明には、CDCの基準に基づき、必要な個人情報とワクチン情報が記録されていれば、検証可能な紙の記録でも、検証不可能なデジタル記録でも構いません。
-
なお、11月8日に導入が予定されている海外から空路でアメリカへ入国する外国人に対する政策とは異なり、陸路やフェリーで米国に入国する際にはコロナウイルスの検査は必要ありません。
国境での手続きについて:
11月8日以降、不要不急の目的で国境を越えて旅行する外国人は、下記のことが求められます。
-
-
- CDCが規定するCOVIDワクチン接種の証明書を提出する。
- 入国審査の際に、旅行の理由とワクチン接種の状況を口頭で証明する。
-
なお、空路でアメリカへ入国する外国人に対し求められる書面によるワクチン接種宣誓や、入国後の追跡調査(コンタクト・トレーシング)の為の連絡先の登録は不要です。
新政策が外国人に対し意味するところ:
2020年3月以降、陸路やフェリーでの観光や個人的な訪問のための米国への入国を禁止されている外国人は、完全なワクチン接種の証明を示すことができれば、11月8日からこれらの旅行をすることができるようになります。ただし、DHSは、旅行者の数が増えることが予想されるため、旅行者は陸路の国境やフェリーターミナルで入国の為に長い待ち時間が発生する可能性が高いと警告しています。
引き続き実施される陸路による入国に対する国境規制では、仕事やビジネスのための陸路またはフェリーで入国することは「必須」とみなされるため、予防接種なしでも入国は許可されます。しかし、2022年1月からは、H、L、O、Bの各ビザやビザ免除プログラムを利用して、仕事やビジネスのために米国に渡航する外国人は、陸路やフェリーを利用して米国に入国する際にも、コロナウイルス用ワクチンの完全な接種証明書の提示が必要となります。今後数ヶ月の間にワクチンの接種を受けることで、年明け以降の陸路での渡米の遅延を防ぐことができるでしょう。
2. 米国司法省と労働省がFacebook訴訟を和解、これが多くの企業にとってPERM申請に伴う求人活動方法に変更をもたらすことに
概要:
-
-
- 米国司法省とFacebook社との間の米国労働者差別訴訟における和解合意は、米国政府の施行基準の変化を示唆するものであり、多くの企業がPERM申請に伴う実務を見直すことになるでしょう。
- 司法省の和解案が自社のPERMプログラムに与える潜在的な影響を精査するために、皆様の会社の移民法の法律顧問に相談することをお勧めします。
- 米国労働省は、Facebook社との間で別の和解契約を締結しており、その内容は公表されていませんが、同省はFacebook社に対し米国人労働者に対する追加の通知と採用活動を行い、同省の特別監視下に置かれる可能性が高いと思われます。
-
問題の内容:
米国司法省(DOJ)と労働省(DOL)は、Facebook社に対する米国労働者差別訴訟において、同社のPERM労働証明プログラムの利用に関する個別の和解合意を発表しました。この訴訟では、同社が米国の法律に違反して、PERM申請に伴う求人活動の際に応募者の国籍やビザステイタスの有無に基づく不当な募集・採用行為を行ったとしています。今回の和解は、Facebook側の非を認めるものではなく、また同社は政府側の言う違法活動に従事したことを否定していますが、司法省の合意内容は、全米の多くの企業のPERM申請プログラムに影響を与える可能性があります。DOLとFacebook社の和解合意の詳細は、まだ公表されていません。
すべての雇用主がDOJの和解案の影響を受けるわけではありませんが、大規模なPERMプログラムを持つ企業や、PERM申請に伴う採用活動が通常の一般的な採用方法とは異なる点がある企業は、政府による新たな監視に直面する可能性があります。雇用主は、Facebookの和解案が自社のPERMプログラムに与える影響を調べるため、移民法を専門とする弁護士に相談することを検討すべきでしょう。
詳細:
司法省の和解案は、PERM申請の管理や法の執行に対する政府の方針が大きく変化したことを示唆していると言えるでしょう。PERMプログラムはこれまで、主に労働省が監査や監視付き採用を通じ、執行してきました。この和解案には、総額1,425万ドルという多額の罰金が含まれているほか、Facebook社に対して将来的にPERM申請に伴う採用活動方法の一部を変更するよう要求しています。
PERM労働証明申請プログラムを管理する規則に変更はありませんが、このように規則の執行方法が大幅に変更されたことで、多くの企業が自社のPERM申請のプロセスややり方を再検討し、この和解案の内容に基づいて変更を行うことになるでしょう。一般的に、新しい枠組みの下では、PERMに伴う採用活動が企業の一般的・標準的な採用活動に近ければ近いほど、政府はPERMプログラムをより好意的に見ていると思われます。つまり、PERM申請に伴う求人活動であるからと行って、普段の求人活動と異なる方法を採らないことが肝要です。
どのような申請が、今回の政府方針変更の影響を受ける可能性があるのか?
現在公になっている情報によると、既に承認されたPERM労働証明申請が、今回の政府の新しい方針の影響を受けるという兆候はありません。現在DOLで審査中のPERM申請も影響を受けないはずですが、監査を受けた申請は影響を受ける可能性があります。 PERMプロセスの初期段階にある従業員や、これからPERM申請行う予定の従業員は、会社の現在のPERM申請方法によっては影響を受ける可能性が高くなります。
司法省とFacebook社の和解の主な条件:
司法省とFacebook社の合意は、Facebook社と司法省の間の法的紛争を解決するものです。この合意は、Facebook社の責任を認めるものではなく、Facebook社は米国人労働者の差別に関する政府の申し立てを否定しています。この合意は、発効日である2021年10月19日から3年間有効です。
和解の金銭的要素としては、Facebook社が米国政府に475万ドルの民事制裁金を支払うとともに、政府との合意に基づく「採用条件を満たした応募者」の定義を満たす米国人労働者に最大950万ドルを支払うための和解基金を創設することが求められています。また、同社は、PERM採用業務について、以下のような様々な変更を求められています。
-
-
- PERM申請の対象ではない職種の採用活動の場合と同様に、PERM申請用の採用活動でもウェブサイトで電子履歴書や応募書類を受け付ける。
- PERM申請に伴う採用活動に際し、応募者に郵送での応募を要求・奨励しない。
- PERM申請の対象となる全てのポジションを、求人活動の対象となっている他のポジションと同様に、会社のウェブサイトに掲載する。
- PERM申請の対象となるポジションの応募者全員を社内の採用システムに登録し、関連する職種・職務の要件を満たしていないかを検討する。
- PERM申請に伴う求人活動が、自社の通常の求人方法とほぼ一致するように、その他の措置を講じる。
-
今回の和解案が意味するもの:
PERM労働証明申請に関する法律や規則は変わっていませんが、今回のFacebookの和解における政府の声明と行動によると、PERM申請に対する政府の方針は大きく変化したようです。企業の皆様におかれましては、これらの新しい動きを踏まえて、自社のこれまでのPERM申請進め方を検証するために、顧問の移民法弁護士に相談されることをお勧めします。
3. 連邦地方裁判所は、H-1B発給枠の上限選出条件を賃金レベルに基づく抽選方法に置き換える国土安全保障省の規則を無効化
-
-
- カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のジェフリー・S・ホワイト判事は、当時(トランプ政権下)の国土安全保障省チャド・ウルフ長官代理が、この規則が公布された時点ではあくまで長官代理という立場であり、議会から正式に任命を受けていなかった為、合法的にその役割を果たしていなかったことを理由に、トランプ政権時代のH-1B枠の選出規則を無効としました。
- この規制は、H-1Bビザ発給枠対象申請の選出を、現在の抽選による選出ではなく、労働省の賃金水準制度に基づく選考方法を採用しようとするもので、2021年12月31日に発効することになっていました。
- バイデン政権がホワイト判事の判決を控訴するかどうかは、まだ分かっていません。 なお、この規制に対する別の訴訟は、別の連邦裁判所で継続審議されています。
-
争点:
米国連邦地方裁判所のジェフリー・S・ホワイト判事は、現行のH-1B上限抽選制度を賃金レベルによる優先順位制度に変更する規制に異議を唱えた米国商工会議所の訴訟において、同会議所の略式判決の申し立てを認めました。この新制度では、労働省の職業別雇用統計(OES)の4段階の賃金体系に基づいて、H-1Bビザが配分されることになる予定でした。政府が提案していたこのシステムでは、提示された給与がその職業と地域で最も高い賃金レベルに該当する外国人が、H-1Bの選考過程で最優先されることが意図されていました。
詳細:
ホワイト判事は、当時のDHS長官代理であるチャド・ウルフ氏が、裁判の焦点となっている上限選択規則を公布した時点で議会から正式に任命承認を受けていなかったことを理由に、この規則を無効としました。また、DHSには賃金水準やその他の基準に応じてH-1B枠を配分する権限がないという原告側の主張については、言及しませんでした。この訴訟は、U.S. Chamber of Commerce v. Department of Homeland Security, Case No.20-cv-07331 (N.D. Ca., March 19, 2021)です。
H-1Bの上限配分規制は、トランプ政権の優先事項であり、当初は2021年3月9日に発効する予定でした。国土安全保障省は、バイデン政権の規制凍結を受けて、規制の発効を2021年12月31日に延期しました。政権がホワイト判事の判決を控訴するかどうかは、まだ分かっていません。 控訴して判決が覆らない限り、2022年初頭に始まる2023年度のH-1Bビザ発給枠対象申請受付に際しては、従来の制度に基づきH-1Bの上限抽選が実施される可能性が高いと考えられています。
なお、この規制は、現在進行中の別の訴訟「Humane Society of America v. Mayorkas, Case No.1:21-cv-01349 (D.D.C., May 17, 2021)」でも争われています。
4. 10月1日から、米国疾病管理予防センターは殆どのグリーンカード申請者に対しコロナウイルス用のワクチン接種を義務付けへ
-
-
- 2021年10月1日より、米国疾病管理予防センター(Center for Disease Control and Prevention – CDC)の新しい方針によると、グリーンカード申請者は、健康診断要件をクリアして永住権を取得するために、コロナウイルス用ワクチンの完全な予防接種を受けることが必要になります。
- この義務は、米国内で移民ビザへの資格変更(Adjustment of Status)申請者と、海外の米国大使館・領事館でグリーンカードを申請する移民ビザ申請者の両方に適用されます。
- 年齢的にコロナウイルス用ワクチンを受ける資格があり、医学的に適切と判断された申請者のみがこの新しい要件の対象になります。
-
概略:
CDCによると、2021年10月1日以降、グリーンカード申請者は永住権取得の資格要件を満たすため、コロナウイルス用のワクチンを完全に接種したことを証明する必要があります。CDCは、米国永住権取得のために必要な予防接種のリストにコロナウイルス用ワクチンを追加しました。
この新しい予防接種は、米国でグリーンカードを申請するAdjustment of Status申請者および海外の米国大使館・領事館で申請する移民ビザ申請者に必要な定期健康診断に含まれます。 移民健康診断は、移民国籍法第212条(a)(1)に規定されている健康に関する不適格事由に関連して行われます。
詳細:
この新しい要件が施行されると、健康診断を受けるグリーンカード申請者は、米国での使用が許可されているワクチン、または世界保健機関が緊急時の使用を指定しているコロナウイルス用ワクチンの完全接種の証明を提示する必要があります。ワクチン接種の自己申告は、書面による証明がない限り認められません。
申請者がまだ完全に予防接種を受けておらず、コロナウイルス用のワクチンが健康診断を行う米国移民局指定の医師の手元にある場合、医師は申請者にワクチンを接種することができます。 ただし、申請者はコロナウイルス用のワクチンを接種してからでないと健康診断を受けることができない為、申請者がワクチンを接種せずに健康診断を受けた場合、案件の処理が遅れる可能性があります。
CDCの新しい方針には、資格変更や移民ビザ申請者の免除や検査に関するガイダンスが以下のように記載されています。
包括的免除:コロナウイルス用のワクチンの接種義務を全面的に免除するのは、管轄区域で利用可能なワクチンの最低年齢制限よりも若い申請者、および医学的に接種ができないことを証明できる申請者に適用されます。また、同ワクチンが、健康診断を実施する米国移民局指定の医師の管轄区域で定期的に入手できない場合、特定の状況下において、申請者は包括的な免除を許可される場合があります。
宗教的または道徳的な信念に基づく免除:申請者が宗教的または道徳的な理由でコロナウイルス用ワクチンの接種を拒否する場合、申請者は米国市民権移民局(USCIS)に免除申請を提出しなければなりません。免除が認められるかどうかは、USCISが判断します。診察した医師やCDCはこの判断をすることはできません。
免疫の検査:CDCは、コロナウイルスの免疫に関する検査をグリーンカードの健康診断の一環として実施しないように勧告しています。申請者は、免疫の有無やコロナウイルスへの感染歴にかかわらず、ワクチンを受けなければなりません。CDCは、自然感染による免疫の持続期間はまだ調査中であり、移民プロセスを通じて申請者を保護できない可能性があるためだと指摘しています。
米国外でグリーンカードを申請する申請者のための追加手続き:
CDCは、米国大使館・領事館で海外の移民ビザ(IV)を申請する外国人に対しても、いくつかの追加手続きを実施します。
コロナウイルス感染の検査:IV申請者は、健康診断の予約時または受診時にコロナウイルスの症状を訴えた場合、感染の有無を検査しなければなりません。隔離を終了するための回復基準を満たすまで、健康診断は延期されます。さらに、2歳以上の無症候性の申請者に対しては、医療機関の公衆衛生上の安全性の観点から、医師の判断により検査が必要となる場合があります。
コロナウイルス感染者との濃厚接触者:コロナウイルス感染者との濃厚接触者となった移民ビザ申請者は、14日間の検疫を完了するまで健康診断を受けることはできません。
今回の方針が意味するところ:
10月1日から、コロナウイルスの予防接種を受けたことを証明する書類を持たずに健康診断を受けたグリーンカード申請者は、包括的免除条件のいずれかで明らかに免除されない限り、申請の審査に遅れが生じる可能性が高くなります。
なお、2歳以上の国際航空旅客の場合、米国への渡航にはコロナウイルスの検査が陰性であること、または最近コロナウイルス感染から回復したことを示す証拠が必要であると米国のCDCが定めています。