アメリカ移民法ダイジェスト
March 4, 2019
1. 国務省は、在中米国大使館でのHビザとLビザ申請審査を、3箇所の米国大使館・領事館に限定することに
概要
2019年3月1日から、中国でのHビザとLビザ申請の審査は、北京の米国大使館、そして、広州と上海の米国領事館の3箇所に限定することなりました。これまでの5箇所から3箇所に減ることで、面接予約までの待ち時間が延びる可能性があります。
国務省の発表によれば、2019年3月1日からHビザとLビザ申請の面接を、北京、広州、そして上海の3箇所の米国大使館・領事館に限定することになりました。成都と瀋陽の米国領事館では、面接を受けることができなくなります。国務省はその理由について、多くのHビザとLビザ申請の審査へ対応できるようにするため、スタッフと専門知識を統合することが目的としています。
HビザとLビザの申請審査を3箇所の米国大使館・領事館に統合することで、この3箇所でのビザ申請面接の取得に時間がかかるようになることが心配されています。また、成都と瀋陽の近郊出身の申請者は、別の3つの大使館・領事館まで赴く必要があることから、申請をするにもこれまで以上に時間がかかることになると予想されます。
2. 発給枠対象のH-1Bビザ申請に関する最新情報:事前登録の導入は延期されるも、抽選方法を変更へ
概要
.発表が持ち望まれていた発給枠対象のH-1Bビザ申請に関する新たな規則が、ようやく発表されました。
新しい規則によれば、政府はオンラインによる事前登録システムを構築することになりますが、導入は2021年度の発給枠のH-1Bビザ申請(2020年4月1日から受付開始予定)からとなりました。
今年4月1日から受付が開始される2020年度枠の申請では、抽選の順番を変えることになりました。
国土安全保障省は、オンラインによる事前登録システムの導入を2021年度のH-1Bビザ申請まで延期することを決定する一方、今年の申請では発給枠対象申請の抽選の順番をこれまでと逆にすることを決めました。
事前登録を来年まで延期した背景には、システム構築とテストを継続するためと考えられています。ひとたび事前登録システムが導入されれば、雇用主は事前登録を通じ選ばれた申請者だけに対し申請書類を提出することができます。事前登録により選ばれると、雇用主は90日以内に申請を提出しなければなりません。このシステムの詳細については、来年始めまでには明らかにされることになっています。
一方、今年4月1日から受付が開始される2020年度発給枠対象のH-1Bビザ申請に対しては、移民局は先ず通常枠対象となる65,000件のH-1Bビザ申請を選びます。その後、アメリカの大学院卒業者枠対象の20,000件のH-1Bビザ申請を選ぶことになっています。国土安全保障省の予想では、抽選方法を従来と逆にすることで、トランプ政権が掲げる「Buy American , Hire American」政策の目標の1つである、より多くのアメリカの大学院卒業者にH-1Bビザを付与することがきると考えているようです。
今回の変更の影響
今年の申請に限れば、大きな影響はありません。従来どおり申請書類を準備し、受付期間である4月1日(月)から5日(金)迄の5営業日内に書類を受理されるよう提出をすることでしょう。
3. H-4ビザ保持者の就労許可に関する規則を無効にする規則案が、国土安全保障省により提出されました
概要
国土安全保障省は、H-4ビザ配偶者に就労許可申請を認めた規則を無効化する規則の草案を、政府へ提出しました。今後、草案内容が審査され、一般からの意見を公募するため公にされます。草案は、国土安全保障省が最終化してはじめて効力は発効することになっており、それまでに未だ数ヶ月を要するとみられています。現時点で申請条件を満たすH-4ビザ保持者は、当面の間は就労許可の申請や延長申請をすることができます。
状況
国土安全保障省は、長い間懸案となっていたH-4保持者の就労許可取得を認めた規則を無効化する規則の草案をようやく発表し、その内容確認のため連邦機関であるOffice of Management and Budget(OMB)へ提出しました。規則の無効化に向けて、一歩近づいたことになります。
今回提出された草案の詳細は不明で、有効な就労許可で現在働くH-4ビザ保持者に与える影響を含め、詳細は政府の官報に発表されるまで明らかになることはありません。
次のステップ
OMBは、90日以内に草案の内容を確認し、内容を承認すれば官報に掲載され内容が一般に公開されます。公開後、企業や個人はその内容に対し意見を述べることができ、通常この期間は30日から60日間と設定されます。この一般からの意見陳述期間終了後、政府は寄せられた意見の内容を確認し、最終規則を作成し発表します。最終規則発表に期限は設けられていませんが、この規則はトランプ政権にとっても重要な規則の1つであるため、早ければ今夏にも発表される可能性があります。
意見公募期間に政府に対し意見を述べることは、H-4保持者に就労許可取得を認めることが企業にとって如何に重要であるかを政府に理解させる上で、決定的となるでしょう。規則案に対し意見を述べることを希望する企業は、御社の案件を担当する当事務所スタッフか政府対応チームへご連絡ください。
現在就労許可で働くH-4ビザ保持者は、どうすべきか
発表が予定されている規則は、H-4ビザ保持者に対し直ぐに影響を与えることはないであろうと考えられています。国土安全保障省は、提案規則が最終化され導入されるまでは、新しい就労許可の申請や更新申請の受付は継続します。但し、一旦規則が導入されれば、直ぐに就労許可の申請ができなくなる可能性はあります。
従い、就労許可の申請を予定する、または更新申請を予定するH-4ビザ保持者は、申請条件を満たすようになった時点で直ぐに手続きを始めるべきでしょう。就労許可の更新申請は、失効の半年前から行うことができます。また、H-4ビザ保持者の就労許可の申請は、H-1Bビザ主体者が6年目以降の延長申請をする際に、同時に申請をすることができます。
4. 2018年12月21日までに移民局へ申請された全てのH-1Bビザ申請に対し、特急審査制度適用を再開
概要
2019年2月19日より、2018年12月21日までに移民局へ申請された全てのH-1Bビザ申請に対し、特急審査の適用を再開しました。今後、移民局から新たな発表があるまでは、12月22日以降に申請されたH-1Bビザ申請に対しては、引き続き特急審査を利用することはできません。また、4月1日から受付が始まる2020年度発給枠対象のH-1Bビザ申請に対し特急審査が適用されるかについては、今のところ政府から発表はありません。
状況
2019年2月19日から、移民局は昨年12月21日以前に提出された全てのH-1Bビザ申請に対し、特急審査の適用を再開しました。特急審査の適用を希望する雇用主は、所定の用紙と申請料$1410を支払い、特急審査の要請を出すことができます。一方、2018年12月22日以降に提出されたH-1Bビザ申請に対しては、引き続き特急審査の適用を受けることはできません。また、移民局がいつ適用を再開するかもわかりません。当初の移民局の発表では、2019年2月19日までに全てのH-1Bビザ申請に対し特急審査を再開することになっていましたが、全面解禁にはなりませんでした。
今回の発表の対象となるH-1Bビザ申請を申請中の企業で、特急審査の適用を希望する企業は、御社の案件を担当する当事務所のスタッフへご連絡ください。
5. 移民局は、特定の延長申請や在留資格変更申請者に対し、指紋採取を義務付けることにしました
概要
3月11日から、就労ビザで働く外国人の帯同家族とB-1やB-2ビザ保持者、そして特定の外国人学生(F-1ビザ保持者)は、在留資格の延長申請や変更申請の際に、移民局指定の機関へ出頭し指紋採取と顔写真の撮影が義務付けられることになります。今回の新しいポリシーは、主体者であるH-1BビザやL-1ビザ保持者は対象となっていません。
状況
移民局は、3月11日から改訂版したForm I-539という申請用紙を導入します。この申請用紙は、従来よりH-4ビザやL-2ビザ、Eビザで滞在する帯同家族が、アメリカ国内に居ながら在留資格(I-94)の期限を延長したり、別の在留資格に変更する際に使用されている用紙です。改訂される新たな用紙では、次の点が義務付けられることになります。
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申請者は、年齢に関わらず移民局の指紋採取機関(Application Support Center)へ出頭し、指紋の採取と顔写真の撮影(Biometricsと呼びます)が必要となる
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指紋採取・写真撮影料として、一人当たり$85を追徴
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申請者各人の申請書類への署名の義務付け(14歳未満の申請者は、親が代理署名可能)
改訂された申請用紙I-539は、現時点で未だ公になっておりません。移民局は、導入日直前である3月8日まで開示しない予定です。現バージョンの申請用紙I-539が使用できるのは、3月21日迄に移民局が受理する申請とされています。
今回の変更の影響を受ける外国人
下記に列挙するビザステイタスで滞在する外国人は、今後在留資格を延長したり、資格を変更する際に今回の変更の影響を受けることになります。
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H-1B、L-1、 E-1、 E-2他の就労ビザ保持者の帯同家族(配偶者とその子供)
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B-1ビザとB-2ビザ保持者
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F-1ビザやJ-1ビザ保持者(但し、F-1ビザやJ-1ビザ保持者の就労ビザへの移行申請には影響しません)
審査の長期化
Biometrics(指紋採取と写真撮影)の採取後、14歳以上の申請者に対してはFBIがバックグラウンドチェックを行います。一方、14歳未満の申請者には、Biometricsの採取はしますが、本人識別だけを目的とするとのことです。また、移民局は、Biometricsの採取通知は申請を受理してから2週間ぐらいで発送することを示唆していますが、申請の審査過程でこのようなことをすれば、必然的に審査の長期化につながることが懸念されています。加えて、帯同家族の在留資格延長申請や資格変更申請と一緒に就労許可の申請を行った場合、この就労許可申請の審査にも時間を要することが予想されます。この就労許可の申請とは、H-4ビザやL-2ビザ、E-1ビザやE-2ビザを持つ配偶者の就労許可申請です。
特急審査への影響
Form I-539を使用する在留資格の延長申請や資格変更申請は、本来特急審査(premium processing service)の対象ではありません。しかし、これまで移民局は、特急審査の対象となる主体者の申請と一緒に申請が提出された場合、または移民局で審査中の主体者の申請に対し後追いで申請された場合に限り、帯同家族の申請も特急審査対象として審査を行うという便宜を図ってきました。しかし、Biometricsの採取が義務付けられる今後は、そのような便宜を図ることはないと思われます。従い、主体者の申請と一緒に家族の申請が提出されても、社員の申請だけは特急審査で審査されるも、家族の申請は通常審査として何ヶ月もの時間がかかる可能性が懸念されています。そして、家族分の申請の審査長期化は、自動車運転免許の更新や海外旅行の計画などに影響を与える可能性があります。
2020年度枠のH-1Bビザ申請への影響
移民局の現在の計画では、4月1日から受付が始まる発給枠対象のH-1Bビザ申請の帯同家族としてH-4ビザへの移行を希望する外国人にも、改訂されたForm I-539が適用されることになっています。ところが、改訂版Form I-539は、申請の受付が始まるほんの数週間前まで公表されないばかりか、それまで使用していたバージョンの用紙は3月21日までしか使用できなくなります。つまり、改訂版のフォーム導入から申請まで時間が無いため、公表後短期間で新しいフォームで準備をしなければなりません。弁護士協会やビジネス業界団体などが、改訂版フォーム導入が与える発給枠対象のH-1Bビザ申請への影響を政府に対し説明し、導入に際しては更なる猶予期間を設けるよう働きかけていますが、便宜が図れるかは現時点で不透明です。
当事務所では、今後の改訂版Form I-539が2020年度の発給枠対象のH-1Bビザ申請に与える影響を注視し、状況に変化があった場合には連絡を差し上げます。
6. 移民局が公表するデーターにより、ビザ申請に対する追加質問や却下が増えていることが改めて確認されました
概要
2015年度から2018年度(2014年10月1日から2018年9月30日まで)の3年間で、H-1Bビザ、L-1ビザ、Oビザ申請に対する認可の比率は下がり、追加質問の比率が上がっています。
ITコンサルティング業の会社のH-1Bビザ申請は、他の業種に比べ却下比率が高くなっており、この傾向は移民局の審査の厳格化に裏打ちされています
移民局から追加質問を受けたり申請が却下される比率は、オバマ政権当時から増加していましたが、トランプ政権が「Buy American, Hire American」という大統領令発令以来急増しています
詳細
米国移民局が発表した最新データーによれば、2014年10月1日から2018年9月30日の3年間に、H-1BビザとL-1ビザを含めたいくつかの主要な就労ビザのカテゴリーにおいて、認可比率の減少と追加質問(Request for Evidence – RFE)の比率の増加が確認されました。今回の最新データーは、オバマ政権時代から続く審査の厳格化を裏付けるものとなりましたが、特に2017年4月以降のRFE・却下比率の増加が顕著です。
H-1Bビザ申請に対するRFEと審査結果の傾向
H-1Bビザ申請全体の認可比率は、2015年度に95.7%であったのが、2018年度には84.5%に低下しました。また、2019年度の第一四半期(2018年10月1日から2018年12月31日まで)のH-1Bビザ申請に対する認可率は75.4%、またRFEの比率は60%でした。因みに、2015年度のRFE比率は22.3%、2018年度は38%となっています。
ITコンサルティング業界では、他の業界よりもRFEと却下率が高くなっており、これはIT分野の一部職業に対する移民局の審査の厳格化や、顧客先で勤務するH-1B社員のビザ申請に対する審査の厳格化が影響しているものと思われます。
移民局へ申請を行うLビザ申請に対するRFEと審査結果の傾向
移民局が審査をするL-1ビザ申請の2018年度の認可率は、77.8%でした。これは、2016年度の85%より下がっています。また、2019年度の第一四半期(2018年10月1日から2018年12月31日)の認可率は74.4%でした。一方、RFEを受ける比率は、2015年度では34.3%であったのが、2018年度には45.6%に上昇し、2019年度の第一四半期には51.8%に達しています。
尚、移民局が発表したデーターには、米国大使館・領事館で審査されているブランケットプログラムに基づくLビザ申請や、カナダ人が米国国境で申請をしているLビザ申請は含まれていません。
TNビザとO-1/O-2ビザの移民局での審査傾向
移民局で審査されるTNビザ申請の認可比率も、2015年度の95.1%から2018年度は88.2%に下がる一方で、RFEを受ける比率が2015年度の17.3%から2018年度の28.2%に上昇しています。そして、2017年12月に移民局がEconomistに対するTNビザの使用を制限するポリシーを発表して以来、認可率は更に下がっています。尚、移民局が発表したTNビザに関するデーターは、米国-カナダの国境で審査されているTNビザ申請のデーターは含まれていません。
また、O-1・O-2ビザ申請の認可率も、2015年度の92%から2018年度は90.7%へ減少する一方で、RFEの比率は2015年度が24.9%、2018年度は27.8%となっています。
今回新たに発表されたデーターが持つ意味
今回の移民局のデーターは、大多数のH-1Bビザ、L-1ビザ、TNビザそしてO-1/O-2ビザ申請は最終的には認可されているものの、ハードルが高くなっていること、そして移民局から寄せられるRFEへの対応に、これまで以上の時間とリソースを費やす必要があること、そして外国籍社員は、仮に申請が却下されれば、別のビザ選択肢を模索しなければならない状況にあることが確認されたと言えるでしょう。
(注)今回の移民法ダイジェストで説明する内容は、あくまで情報提供を意図したものであり、法律的なアドバイスを意図したものではありません。皆様の企業や従業員の個別状況に対するアドバイスをご希望の場合は、御社の案件を担当する当事務所のスタッフへご連絡ください。