2023年5月アメリカ移民法ダイジェスト
June 6, 2023
1. 2024年度H-1B発給枠対象申請の抽選登録数は、過去最多に。また、同一人に複数登録をするケースが急増。
概要:
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- 米国移民局は、2024年度H-1B発給枠対象申請の抽選登録数が、昨年の登録者数より60%増となる758,994件の登録者数を記録したことを発表しました。
- 移民局は、発給枠である85,000件を対象に110,791人を当選させました。当選率は6%で、これは過去最低の数字です。因みに、2023年度の当選率は、26.9%でした。
- 移民局の報告によると、全体の内408,891件の登録が同一人物への複数登録であり、この登録システムが悪用されている可能性が懸念されています。このため、移民局は調査を開始し、不正が疑われる場合には法的機関への照会も検討することになりました。
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問題の内容
移民局は、2024年度のH-1B発給枠対象申請の登録受付期間中に758,994件の登録申請があったことを発表しました。これは過去最高の登録数で、昨年の登録数に比べて60%増加しました。 移民局は、年間85,000人のH-1B枠用に110,791人の登録者を選びましたが、これは全体の14.6%であり、昨年の当選率26.9%をはるかに下回ることになりました。
移民局は通常、当選しても最終的に請願書が提出されないケースや、審査の結果却下したり申請が撤回・取り消されるケースを考慮し、年間割当数を満たすために発給枠以上の登録者を選ぶことがあります。 しかし、今年の当選率は、これまで26~42%であった例年と比較すると著しく低い数字です。 移民局は、H-1Bビザの発給枠から別枠として扱われるチリ人/シンガポール人を対象としたH-1B1ビザの需要が高く、H-1Bビザの抽選登録の当選者の請願書提出率が高くなると予想されたため、当選数が少なかったと述べています。 移民局は、米国大学院を卒業した外国人に対する20,000の発給枠を対象にした当選者の数は公表していません。
登録者数の急増に迫る
2024年度シーズンの登録者数が大幅に増加した理由は、複数が考えられます。 少なくともその1つの理由は、労働市場の逼迫が続く中、通常の需要増に起因するものです。 しかし、最も大きな要因は、複数の登録が行われた登録者が著しく増加したことでしょう。 移民局によると、408,891件の登録は、複数のスポンサー企業が同一人物を登録し、当選確率を著しく高めることになりました。同じ外国籍者に対し複数の会社が登録できる場合もありますが、今年の急増は登録システム悪用の可能性に対する懸念を引き起こし、移民局は調査を開始し、場合によっては刑事告発も準備しています。
複数の登録と関連する法的措置
移民局の規則では、1人の外国籍者に対し複数のスポンサー企業によって抽選登録できる条件を制限しています。 各登録に際してスポンサー企業は、登録した外国籍者に対し仕事のオファーがあり、また当選確率を不当に高めるために他の個人または団体と協力していないことを証明しなければなりません。 例えば、その外国人が複数の無関係な雇用主から仕事のオファーを受けているなら、1人の外国人に対し複数の雇用主が合法的に抽選に登録する状況もあります。 しかし、仕事のオファーが無いにも関わらず、抽選確率を上げる為に企業が外国籍者の登録を行っているのであればそれは問題です。
今年のH-1B発給枠対象申請の登録時における複数登録の傾向や、その傾向に対処するための移民局の計画については、多くの未解決の疑問が残されています。 しかし、移民局の担当者は、「数十社」の小規模なテクノロジー企業が、抽選で大量に当選し、当選した外国籍者のH-1Bビザ申請を提出し、承認後にその者を他の会社へ斡旋したり、雇用を終了させて他の雇用主でH-1B雇用できるようにしようとしたとする談合の証拠があることを示しています(一度当選しH-1Bビザ申請が承認された外国人が転職する場合は、発給枠の対象にはなりません)。 移民局の取締りの対象が抽選登録を提出した企業なのか、利益を受ける外国籍者が配属される企業や転勤する企業に及ぶのかは、まだ明らかではありません。 あまり知られていない、あるいは一見疑わしい会社がH-1Bビザのスポンサーとなっている外国籍者を雇用する機会、またはそのような個人を外部業者からの派遣者(コントラクター)として受け入れる機会がある雇用主は、できるだけ早く当事務所へご連絡ください。
移民局が、2回目の抽選を行う可能性は?
抽選の当選率が低いため、多くの雇用主が外国籍社員の雇用のニーズを満たすことができない状態になっており、ビジネス界に大きな懸念をもたらしています。 移民局が2024年度の発給枠申請の為の2回目の抽選を行うかどうかは、まだ明らかではありません。 移民局が二次抽選について決定するのは、当選した登録者の請願書提出期間が終了した後、つまり早くても7月以降になると思われます。 2021年度と2022年度のH-1B発給枠申請シーズンでは、複数回の抽選を実施しましたが、2023年度の申請では行いませんでした。
2. 移民局は、一部のH-4ビザ、L-2ビザ、Eビザ帯同家族の生体認証情報(バイオメトリクス)収集の一時的な中断を延長し、今後全てのI-539申請者のバイオメトリクス採取免除を恒久化することを発表
概要:
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- 2023年9月30日まで、米国移民局はForm I-539でH-4、L-2、Eの帯同家族の在留資格変更および滞在延長を申請を行う申請者のバイオメトリクス収集を、引き続き停止します。この一時的な停止は、2023年5月17日に終了することが決まっていました。
- 移民局によると、今後数ヶ月のうちに、すべてのForm I-539申請者を対象とした恒久的なバイオメトリクス免除措置を設ける予定です。
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詳細:
米国移民局(USCIS)は、H-4、L-2、Eビザを持つ帯同家族の在留資格変更および米国での滞在延長を申請する際のバイオメトリクス採取の一時期的な停止期間を、23年9月30日まで延長しました。この期間中、H-4、L-2、またはE-1、E-2、E-3ビザを持つ帯同家族がForm I-539を使用して資格変更や延長申請をする際に、指紋採取と顔写真撮影を受ける必要がなくなります。ただし、USCISは必要と判断した場合、ケースバイケースでバイオメトリクスを要求する権利を有します。
今回の発表で、USCISはすべてのForm I-539申請者のバイオメトリクス要件を恒久的に撤廃する計画も確認しました。同機関によると、恒久的な免除は今後数ヶ月のうちに正式に発表される予定です。この政策変更は、2022年12月に発表された「USCIS Fiscal Year 2022 Progress Report」の中の政策変更の1つでした。
Form I-539のバイオメトリクスポリシーに関する背景
USCISは、トランプ政権下の2019年3月、Form I-539申請者からのバイオメトリクスの収集を開始しました。この結果、これらの申請とそれに対応するH-4、L-2、E配偶者労働許可証申請の審査時間が大幅に増加しました。そして、それを受けてH-4およびL-2申請者の長時間の審査遅延を争う訴訟(Edakunni, et al. v. Mayorkas)が提訴され、その交渉の結果USCISは2021年5月17日から2023年5月まで、H、L、そしてEビザを保持する帯同家族のバイオメトリクス収集を一時的に停止しました。
関連して、2023年1月に成立した別の和解合意に基づき、USCISはH-4およびL-2の滞在延長および資格変更申請とそれに付随する配偶者就労許可申請書を、これらの申請書が同時に提出される限り、主体者(社員)のForm I-129請願書と同時に審査する慣行を再開することに同意しました。バイオメトリクスの停止と合わせて、この政策変更により、多くのH-4およびL-2申請者の審査期間を短縮化することに繋がっています。
外国籍の方にとっての意味
バイオメトリクス情報採取の停止は、I-539申請者およびH-4 やL-2、Eビザ配偶者の就労許可申請審査の遅延をある程度軽減し続けるでしょう。2021年11月のUSCISの方針変更により、L-2およびEビザ配偶者が合法的に就労するために雇用許可証(EAD)を取得する必要はなくなりましたが、配偶者の就労許可は「その在留資格に付随する」ため、帯同家族としての資格の承認をまず得ることが必要となっています。例えば、アメリカ国内でH-1BやL-1保持者と結婚したF-1の学生が配偶者としての就労許可を取得するには、先ずH-4やL-2の在留資格へ変更する必要があります。そのようなケースでは、通常H-4やL-2への資格変更申請と一緒に雇用許可証の申請を提出する場合が多くあります。従い、Form I-539の延長またはステータス変更申請が早く承認されれば、雇用許可申請がより早く処理されることになります。
USCISは個々のケースでバイオメトリクスを要求する裁量権を持っているため、今回発表のポリシーにもかかわらずUSCISからバイオメトリクス採取通知を受け取った申請者は、指定された日時と場所に出頭するか、都合がつかない場合は変更要請を出してください。通知を無視し採取を受けない場合、申請は放棄されたものとみなされる可能性があります。
3. 国際線で渡米する際のCOVIDワクチン接種義務は5月11日で終了、陸路で国境を越える旅行のワクチン接種義務も終了間近に
概要:
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- 2023年5月11日以降、米国に空路で渡航する非移民は、コロナワクチン接種の証明書の提示が不要になりました。
- また、国土安全保障省は、メキシコとカナダから陸路で入国する非移民に対するコロナワクチン接種義務の終了を別途発表することになっています。
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詳細:
ホワイトハウスは声明を発表し、2023年5月11日以降非移民としてアメリカへ空路入国する外国人は、コロナワクチン接種の証明書を提示する必要がなくなりました。空路による入国者に対するワクチン接種義務は、COVID-19の公衆衛生上の緊急事態に対応して2021年から実施されていました。ホワイトハウスは、COVID-19公衆衛生上の緊急事態の正式な終了と同じ5月11日に、空路入国者に対するコロナワクチン接種義務を終了させました。
これとは別に、国土安全保障省(DHS)は、カナダとメキシコからの非移民陸路国境渡航に対するCovidワクチン接種義務の終了も後日発表すると声明を出しています。
今回の発表の意味
これを以て、CDCのガイドラインに従ってワクチンを完全に接種していない非移民の外国人も、米国行きのフライトへの搭乗とカナダまたはメキシコからの陸路での米国入国が許可されるようになりました。
この方針変更は、米国の永住権(グリーンカード)を申請する外国人のコロナワクチン接種要件には影響しません。追って政府から通知があるまで、グリーンカード申請者は申請に必要な健康診断に合格するために、引き続きワクチン接種の証明、または接種免除の例外資格を満たしていることを示す必要があります。一般的に、グリーンカード申請の為の健康診断では、海外渡航に必要が無い複数の予防接種を受ける必要があることに留意してください。グリーンカード申請の健康診断に必要な予防接種を廃止する方針は、疾病管理予防センター(CDC)から別途発表される必要があります。
4. アメリカ政府は、COVID-19への対応の一環で導入していたI-9手続き柔軟対応措置終了に伴い雇用者に課す対応期間を、8月30日まで延長
概要:
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- 米国移民税関捜査局(US Immigration and Customs Enforcement – ICE)の発表によると、COVID-19パンデミック対応として導入されていたI-9手続きの柔軟な対応措置が7月31日に終了した後、雇用主は2023年8月30日までの30日間内にForm I-9の書類検査要件に対応することができるようになりました。
- 一時的な柔軟対応措置を利用してI-9手続きを遠隔で行っていた雇用主は、8月30日までに全てのForm I-9文書の実物検査を終えるか、ポリシーで求められている場合はそれ以前に終える必要があります。
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問題点
ICEは、7月31日に期限切れとなる臨時のCOVID-19対応柔軟措置に基づき、遠隔で確認をしていたForm I-9文書(就労許可の証明書類)の実物確認をする期間を30日間まで延長しました。 これにより、政府が方針を変更しない限り、雇用主は2023年8月30日までに、これまでリモート検証したI-9手続きに関連する書類の原本確認を実施することが義務付けられることになりました。
背景について
2020年3月20日以降、ICEはCOVID 19により雇用主がリモート勤務を許している特定の従業員に対して、Form I-9の手続きの際に遠隔検証を許可してきました(それ以前は、実物書類を目で確認しなければなりませんでした)。遠隔検査には、ビデオ、ファックス、電子メールによる検証が含まれ、それを記録として残しておく必要がありました。I-9検証柔軟政策の最新版によれば、対象となるリモート勤務の従業員が「定期的に、一貫して、または予測可能なベース」でオフィス出勤を開始するまで、または2023年7月31日にこの柔軟政策が終了するまで(どちらか早い方)、対象となる雇用主は遠隔でI-9検証を継続できることとし、その後はわずか3営業日以内に雇用主が対面でI-9手続き書類の原本確認を実施しなければならないとされていました。今回の発表では、柔軟政策が終わる7月31日まで、従業員がリモート勤務を続ける場合、雇用主は2023年8月30日までに当該従業員のI-9手続き書類の原本検査を終えれば良いことになりました。
この発表により、雇用主は7月31日のI-9対応の柔軟施策の終了に伴うI-9書類の原本検査期間に余裕が生まれました。しかし、上述のように、Form I-9を遠隔で記入した社員の内、7月31日以前に定期的に、一貫して、または予測可能なベースで非リモート勤務になっている場合は、そのような変更があってから3営業日以内にI-9文書の原本検査を行わなければなりません。
これに関連して、国土安全保障省は、I-9手続きに関し身分証明書や雇用許可書類の対面実物検査に代わる検査方法を認める規則を近く公表する予定です。規則案は 2022 年 8 月に公表され、一般からの意見を募る期間が 2022 年 10 月 17 日に終了しています。ICEによると、国土安全保障省は現在この提案に対する一般から寄せられた意見を検討中で、今年後半には最終ルールを発行する予定としています。
今後の予定
COVID-19パンデミックに伴う Form I-9手続きの柔軟対応施策を利用してきた雇用主は、2023年8月30日に30日間の対応猶予期間が終了することを見越して、できるだけ早く現物書類の確認を開始する必要があるでしょう。遠隔勤務を続ける従業員に対しては、雇用主はオフサイトの第三者を利用し、雇用主に代わってI-9書類の実地検証を行うことができます。I-9手続きにおける書類の物理的な検査に使用される方法が何であれ、検査は一貫して、差別のない方法で実施される必要があります。