2022年7月 アメリカ移民法ダイジェスト
July 29, 2022
By: Shintaro Araki
1. アメリカ 移民局、2022年の規制計画を発表
概要:
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- 国土安全保障省(DHS)は、雇用者と被雇用者の関係の再定義や、特に勤務地の変更における請願書の修正要件の明確化など、H-1Bビザプログラムの一部を修正する規則案を引き続き検討しています。
- 労働省は、H-1BビザやPERMプログラムなどの実勢賃金の引き上げを提案する計画があることを再確認しています。しかし、H-1Bビザの発給枠を賃金レベル別に割り当てるというDHSの提案は、もはや同省の短期的・長期的な課題ではなくなりました。
- DHSは、Form I-485 Adjustment of Status申請の審査期間を改善するための規則案を発表する予定です。
- 米国移民税関捜査局(Immigration and Custom Enforcement)は、I-9身分証明書および就労許可証のオリジナルの目視検査に代わる方法を許可する規則案を引き続き検討しています。規則案の公表は、現在7月に予定されていますが未だ発表はありません。
- 国務省は、H-1BやH-3カテゴリーに代わるB-1ビザ(B-1 in lieu of H-1BまたはB-1 in lieu of H-3)の使用を廃止するという以前発表した計画を再考しています。
- DHSと国務省の両方が、手数料を値上げするための規則を策定中です。
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問題点
国土安全保障省、労働省、国務省の各局は、今後数ヶ月間の各局の規則作成の優先順位と予定を示した新しい規制のアジェンダを発表しました。
以下は、各省庁のアジェンダの中で、雇用に基づくビザ手続きに関する主要項目の要約です。提案された規則と最終規則の詳細は、各規則が公表されるまで機密事項として扱われ公になりません。各政府機関では、その規制活動に関する公表予定日を設定していますが、実際の発表がこの予定から遅れることはよくあります。
H-1Bビザプログラム近代化:
国土安全保障省(DHS)は、H-1Bビザを改正する規則案を引き続き検討しています。この規則では、H-1Bビザに伴う雇用者と被雇用者の関係を再定義し、長年行われてきたFDNS(Fraud Detection and National Security)訪問監査プログラムに関する規則を制定し、H-1Bビザへのステータス変更を待つF-1学生に対するキャップギャップ優遇措置をさらに明確にすることが期待されています。また、H-1Bの雇用に重大な変更があった場合に移民局へ行う変更申請手続きを簡素化することも意図しています。この規則案は、当初2021年12月に公表される予定でしたが、2023年5月に再延期されました。
グリーンカード申請(Adjustment of Status申請)の改訂:
DHSは、I-485 Adjustment of Status申請書の処理時間の短縮、移民ビザ発給枠の効率的な利用、優先処理日(Priority Date)後退の可能性の軽減、宗教活動家を含む雇用ベースの第4優先カテゴリーへの同時申請の拡大などを含む、Adjustment of Status申請の審査改善のための規則案を発表する予定です。この規則案は、現在、2023年5月に公表される予定です。
市場賃金の引き上げ
今回の規制案では、労働省がH-1Bビザ、H-1B1ビザ、E-3ビザ、PERMプログラムの市場賃金率を引き上げる規則を進める予定であることが再確認されました。最終的な市場賃金規則は2022年11月14日に発効する予定でしたが、連邦裁判所は昨年、労働省の同意を得てトランプ政権時代の規則を取り消しました。労働省は、昨年初めに実施した一般からの意見公募期間中に寄せられた意見を考慮し、新たな市場賃金規則を検討しています。新案の公表は、現時点では2022年10月の予定です。
フォーム I-9 の書類検査について:
米国移民税関捜査局(ICE)の規制アジェンダには、Form I-9雇用適格性確認プロセスにおける身分証明書および雇用許可書類の対面検査に代わる可能性のある規制案が継続して含まれています。具体的な代替案はまだ不明ですが、COVID-19の流行により一時的に実施されたものと同様の遠隔による書類確認ができる方法が含まれる可能性があります。規制案は2022年7月に公表される予定です。
国務省、Hビザに代わるB-1の廃止を再検討:
国務省が新しくした規制アジェンダによると、同省は現在、H-1BビザおよびH-3ビザのカテゴリーの代わりにB-1ビザの使用を廃止するというトランプ政権時代の規則案を再検討していることが示されています。この問題に関する最終規則は、2022年7月に発表される予定です。
移民局と国務省の申請料金の値上げについて:
移民局は、請願書および申請書の提出手数料を値上げするための規制案を引き続き検討しています。この料金値上げ案は、2020年後半に連邦裁判所によって差し止められたトランプ政権時代の料金規定に代わるものとなる予定です。
同様に、国務省は、非移民ビザ申請手数料およびJ-1ホームレジデント要件の免除のための手数料を変更する最終規則を発行する予定です。
移民局の料金規則案は2022年9月に、国務省の最終料金規則は2022年12月に公布される予定です。
国土安全保障省(DHS)は、最新の料金表の公布に加え、国境警備料金4000ドル/4500ドルの適用条件を拡大し、50人以上の従業員がおり、そのうち50%以上がH-1BまたはL-1資格の社員が占める雇用主が申請するH-1BビザおよびL-1ビザの滞在延長を含めることを引き続き検討しています。現在、対象となる雇用主は、移民局でのH-1BビザおよびL-1ビザの初回申請および雇用主変更申請、また米国領事館でのブランケットL申請に対してこの料金を支払う必要がありますが、現在この費用は滞在延長や修正申請には適用されません。この規則案は、以前は2022年5月に公表される予定でしたが、現在は2022年10月に公表される予定となっています。
長期的な規制計画:
短期的な規制の優先順位を示すことに加え、移民局は長期的な規制の計画も発表しました。
特に移民局は、L-1ビザに関する規則の改正を提案し、専門知識の定義の改訂、雇用の定義と雇用者-被雇用者関係の明確化、L-1カテゴリーに賃金要件を課す可能性など、長期的な計画を改めて示しました。L-1規則の提案は、2023年6月に暫定的に予定されています。
このプログラムでは、雇用主が雇用に基づく非移民及び永住権申請において、一定の資格要件を移民局に事前判断してもらうことで、就労ビザ申請や雇用ベースのグリーンカード申請手続きを合理化することを目的としています(Known Employer Program)。移民局はまた、H-2AビザおよびH-2Bビザプログラムの近代化および改革を行う長期的な計画を持っています。これらの長期的な規則案の発表の目標日は設定されていません。
H-1B賃金配分規則案が取り下げられる:
DHSの最新の規制議題によると、社員に支払われる賃金に応じてH-1Bビザの発給枠を割り当てる規制を追求する予定は今のところないことが明らかになりました。この規制のトランプ政権版は、昨年連邦裁判所によって無効とされました。 バイデン政権は賃金ベースの発給枠の配分への支持を示していたものの、この問題に関する新たな規制案はもはやDHSの現在および長期的な予定には含まれていないことが明らかになりました。
今後の課題:規制のタイムライン
この規制案は、今後数ヶ月のバイデン政権の優先順位を示すものです。ほとんどの規制は、まず提案の形で発表され、30日から60日の意見公募期間が設けられます。そしてその後は、一般から寄せられた意見を検討するだけでなく、その後行政管理予算局による最終審査をクリアして初めて実施される可能性があります。通常の規則制定プロセスでは、少なくとも数ヶ月かかりますが、暫定的または一時的な最終規則は、状況によってはそれより短い期間で迅速に実施されることもあります。
2. 米国移民局は、RFE、NOID、Appeals、およびその他の対応に関するCOVID-19 優遇措置を2022年10月23日まで延長し、COVID対応として暫定的に導入した署名に関する 方針を恒久化へ
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- COVID-19の緊急事態が続いているため、移民局(USCIS)は回答・対応期限を延長する措置を2022年10月23日まで延長します。
- 2020年3月1日から2022年10月23日の間に出された証拠提出の要請、却下または取り消しの意思表示、EB-5地域投資センターの終了の意思表示、その他特定の通知に対して、請願者および申請者は引き続き回答期限が60日間延長されます。
- 雇用主及び外国人は、2021年11月1日から2022年10月23日の間に発行されたUSCISの否認・却下判断再考要請または控訴の為のForm I-290Bの提出、Form N-336に基づく動議要請を提出する期限も、引き続き90日間延長されることになります。
- USCISはまた、COVID時代の署名ポリシーを恒久化することを発表しました。このポリシーでは、「直筆署名のコピー」が施された申請用紙を提出することができましたが、直筆署名が含まれるオリジナルのフォームは引き続き保持する必要があります。
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詳細:
COVID-19パンデミックへの継続的な対応としてUSCISは、同局からの様々な要請に雇用主や外国人社員が対応する為の対応期限を延長するポリシーを、2022年10月23日までさらに延長することになりました。COVID-19のパンデミックによる悪影響を最小限に抑える措置として、2020年3月に当初発表されたこの便宜措置は、これまで何度か延長されてきました。直近では、7月25日で失効する予定でしたが、それが再度延長されました。
また、同庁は、COVID時代の署名ポリシーである「直筆署名のコピー」の使用を許可する暫定方針を、直ちに恒久化することを発表した。同庁によると、COVID 19対応として導入された優遇措置を恒久的に採用できるか、また採用すべきかを検討しており、直筆署名に代わりそのコピーを申請に使用できる方針は恒久的に採用する価値があると判断されたとのことです。
回答期限の緩和措置が2022年10月23日まで延長:
USCISの回答期限緩和措置は、下記の対応を行う雇用者や関係者に対し引き続き適用されます。
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- 証拠提出依頼書(RFE)
- 否認意図の通知(NOID)
- 取り消しまたは取り消し意思通知(NOIR)。
- EB-5地域投資センター終了の意思表示(NOIT)。
- 証拠請求の継続(N-14)。
- 8 CFR 335.5に従いN-400(帰化申請)を再開するための動議、許可後の不利益情報の受領。
- Form I-290B に基づく移民局判断の再考要請または控訴申請
- Form N-336に基づく 帰化手続きにおける決定に関するヒアリングの要求
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2020年3月1日から2022年10月23日の間にRFE, NOID, NOIR, NOIT, N-14を受け取った申請者および請願者は、USCISへの回答期間が当初の返答期限に加えさらに60暦日を延長されます。
2021年11月1日から2022年10月23日の間になされたUSCISの決定に対して、USCISは、決定日から90日(通常の規則ではほとんどの場合30日)、フォームI-290Bの上訴または申し立て、フォームN-336の聴聞請求の提出を認めることになりました。
直筆署名書類のコピーの使用を許可するポリシーが恒久化:
今回の発表でUSCISは、COVID時代の直筆署名書類のコピーの使用を許可するポリシーを恒久化しました。本日より、2020年3月21日以降に提出される移民局の全ての申請用紙の署名が直筆署名のコピーでも受付る方針が、無期限で継続することになりました。
これは、原本の手書き署名を含む原本のコピーであれば、スキャン、ファックス、コピー、またはそれに準ずる複製が使用可能であることを意味します(特に指定がない限り)。複製されたオリジナル署名を含む書類を提出する個人または団体は、直筆署名を含むオリジナル書類のコピーも保持しなければならず、USCISはいつでもオリジナル書類の提出を求めることができます。USCISのポリシーでは、オリジナルの署名またはオリジナルの署名のコピーの代わりに、「e-signatures」または政府のフォームに重ねられた署名の画像は引き続き禁止しています。
雇用主および外国人への影響:
企業のビジネスの中断、社員の遠隔勤務、雇用者を含めた関係者に対する移民局からの通知や書類発送の遅延や未受領が増加する中、雇用主や外国人がUSCISからの問い合わせや不服申し立てに対応する為の時間的なプレッシャーを一時的に緩和するために、当局の回答期限の延長が継続されることになりました。注意すべき点は、この緩和措置は滞在期間延長や雇用許可申請には影響しません。延長申請や雇用許可の申請は、引き続き期限前にタイムリーに行う必要があります。
雇用主および外国人にとって、政府が直筆署名のコピーでの申請を許可する方針を恒久下したのは朗報です。このポリシーに関する利用者側の義務は、オリジナルの署名が入った全てのフォームの保存をするなど、これまでと変わりません。
3. 米国移民局のオンブズマンが、議会への年次報告で同局審査遅延と資金調達の課題を強調
概要:
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- 米国移民局(USCIS)のオンブズマンの年次報告書は、USCISの深刻化する審査遅延について説明し、同機関の運営を改善するために議会の予算と申請手数料の増額が必要であることを強調しています。
- 2022年4月現在、USCISには850万件の移民給付申請が保留されており、そのうち500万件以上が「審査遅延」とされています。
- オンブズマン事務所では、2021年に同事務所へ寄せられたUSCIS案件支援の要請数が前年比79%増となっており、これは審査の遅れが一因としています。
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問題点:
USCISオンブズマンPhyllis Coven氏は、議会への年次報告書の中で、USCISで増加する申請残数と審査の遅れ、および申請手数料で運営する現在の業務モデルを超える資金の必要性に大きく焦点を当てています。この報告書は、市民権・移民サービスの提供に関する改善を勧告し、審査待ちで保留状態にある案件増加という問題に直面している移民・非移民の外国人を支援するために、議会が設立した独立機関であるオンブズマンオフィスが毎年発行しています。
より詳しく:
今年のUSCISオンブズマンの報告書は、USCISに移民給付を求める雇用者や外国人の経験を裏付けるもので、ほぼすべての申請タイプにおいて審査が遅れ、その結果外国人が就労、旅行、移民手続きを進めることができないことを強調しています。
報告書によると、2022年4月時点でUSCISには850万件の申請が保留されており、そのうち500万件以上が公表された処理時間を超えて保留されていることから、USCISの機能を改善するためには、業務改革と資金・人員増強の両方が必要と断定しています。審査遅延とそれに伴う雇用主や外国人への影響の結果、オンブズマン事務所では、2021年に寄せられたケース支援要請が前年比79%増、合計26,097件の要請があったとのことです。USCIS法制局では、2022年度(2022年9月30日終了)に議会からの問い合わせが17万件近く寄せられると予想しており、これは2021年度に比べて34%増となります。
年次報告書の提言には、雇用許可証(Employment Authorization Document)更新プロセスのさらなる変更、事前渡航許可証(Advance Parole)発行に関連して渡航の柔軟性の付与することや、既存の申請迅速化要請手続きの改善など、移民局による審査遅延の影響を軽減できる管理・運営措置が含まれています。しかし、報告書は運用上の措置の実施だけでは、USCISが直面しているリソースと処理の課題に対処するには不十分であり、より多くの資金とスタッフが必要であるとも述べています。オンブズマンは最近、年次報告書で繰り返された別の正式な勧告を発表し、手数料審査プロセスと人員配置モデルを修正し、人道的関連移民給付の費用をまかない、申請の滞留に対処するための議会から予算の計上を求めるよう、同機関に要請しています。
USCISはオンブズマンの勧告を実施する必要はありませんが、年次報告書に正式に回答することが求められています。 オンブズマン報告書の発行に先立ち、2022年春にUSCIS指導部は、2023年度予算要求の中に審査能力向上と遅延案件対応のため、議会に対し3億8900万ドルの費用を要求していることを発表しました。また同庁は、全庁で約4,000人分のポジションに空きが生じており、それを埋めるために強力な求人活動を行うことを発表しています。USCISの財政問題に対処するためのさらなる努力として、USCISは2022年9月に新しい規則案を発表し、手数料の引き上げと最近の運営コストの回収を行う予定です。この規則は、施行に先立ち、一般への通知と意見公募の手続きを経る必要があります。