2025年9月 アメリカ移民法ダイジェスト
October 2, 2025
米国政府が9月に発表した移民施策の内、日系企業に影響を及ぼしえるものをまとめたダイジェストの9月号をお送りします。今回の内容は、次のとおりです。
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- DHSがH-1Bビザ枠の配分に、賃金水準に基づく加重方式を提案
- 労働省、H-1Bビザの賃金規則の執行を強化
- 国務省が第三国国民の非移民ビザ面接予約を制限する方向へ
- 新たなH-1B規制の影響に関するよくある質問の更新版
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1. DHSがH-1Bビザ枠の配分に、賃金水準に基づく加重方式を提案 概要
- 提案されている規制は、H-1Bビザ発給枠の抽選プロセスを変更し、労働省の4段階の一般賃金体系に基づく最高賃金の受益者に対してより高い当選確率を与えることを目的としています
- 提案された制度では、H-1B枠に登録された受益者は、雇用主が提示する賃金に基づいて加重方式で抽選に組み込まれます。レベル4の賃金(最高レベル)を提示された受益者は抽選に4回、レベル3は3回、レベル2は2回、レベル1は1回組み込まれることになります。
DHSは、9月24日の規則案公布後、30日間にわたり本提案に関する公衆からの意見を受け付けます。
提案されている加重選考制度は、連邦規則制定プロセスを経て規則が確定するまで発効しません。通常、このプロセスには数か月を要し、また規則が確定してもその後法廷闘争の可能性もあり、実施時期は未だ見通せません。
問題点
9月24日に連邦官報に掲載予定の規則制定案通知によると、国土安全保障省(Department of Homeland Security - DHS)は労働省の職業別雇用・賃金統計(Occupational Employment and Wage Statistics - OEWS)に基づく職種および雇用地域において最高賃金を得ている者をH-1B発給枠対象申請の選考過程で優遇するため、抽選プロセスの変更を模索しています。今回の規則案は、トランプ大統領が2025年9月21日以降に提出される特定のH-1B申請に対し10万ドルの手数料を課す大統領令に署名した数日後に発表されました。
DHSは公示後30日間、本案に対する一般からの意見を募集します。規則が連邦規則制定手続きを経て承認されるまで、本案は最終決定となりません。
加重選抜システムの仕組み
提案されているH-1Bビザ枠配分の改訂方法は、労働省のOEWS賃金水準に基づいています。H-1B発給枠抽選に登録した受益者は、加重システムを用いて選考システムに登録されます。労働省の4段階賃金構造においてレベル4(最高位)に相当する賃金が提示された受益者は、抽選選考を4回受けることができます。レベル3の受益者は3回、レベル2は2回、レベル1は1回受けることになります。つまり、OEWSの給与統計に対し高い給与額を提示されたH-1B申請者ほど、当選する可能性が高い精度と言えます。
雇用主は、H-1Bビザ枠抽選における各候補者の登録時に、適切な職業コード、OEWS賃金水準、および雇用地域を明記することが義務付けられます。抽選で受益者が選ばれた場合、雇用主が提出する移民局の申請用紙Form I-129 には、登録時に示された賃金水準が当該職業に適切であることを証明する書類を添付する必要があります。移民局は、申請者が不適切な賃金水準を選択したり、抽選登録で示した当該受益者の賃金水準よりも低い賃金を請願書で提示したりすることで、不当に当選確率を高めようとしたと判断した場合、請願を却下(または既に承認済みの場合は取り消し)することができます。ただし本提案は、登録時から請願書提出時までの間に予定される勤務地が変わる可能性があることを想定しています。従って移民局は、勤務地の変更が抽選の登録時点における真正な雇用のオファーと整合すると判断する場合、予定勤務地の変更(より低い賃金水準に対応するもの)を裁量により認めることができます。
提示賃金と対応する賃金水準
H-1B枠登録では、H-1B申請予定者に提示される賃金に関連するOEWS賃金水準が反映されます。受益者が複数の勤務地で働く場合、雇用主は当該職種に関連するOEWS賃金水準の中で最も低いものを選択する必要があります。複数の雇用主が外国人労働者に対して登録を提出した場合、当該外国人労働者は最低賃金水準の登録に基づきH-1B枠抽選に参加します。
移民局は、H-1B選考プロセスにおける競争力を高めるため、特定の外国人労働者に対してより高い賃金を提示する雇用主がいることは認識しています。そしてその場合、雇用主がオファーする給与額は技能レベルと直接関連する必要はないと述べています。移民局は、より高い賃金を「当該職位の技能レベルそのものとは関連しない場合でも、受益者が持つ独自の資質を反映したもの」として、受益者の雇用主に対する価値の表れと見なします。
2027会計年度H-1Bビザ枠およびそれ以降の動向への影響
提案通り最終決定された場合、この規制により雇用主が採用できる候補者、特に労働省賃金体系の初級レベルであるレベル1相当の賃金が提示された候補者の採用が制限される可能性があります。
この規制案は提案段階に過ぎませんが、2026年3月に始まる2027会計年度H-1B枠申請のシーズンまでに最終決定される可能性があります。本規則が実施された場合、雇用主は顧問の移民法弁護士と共に、移民局が2027会計年度枠の登録受付を開始するかなり前に、各候補者に適切な賃金水準を決定するため、H-1B候補者候補の評価を実施する必要があるでしょう。
提案された規制の今後の流れ
国土安全保障省(DHS)は、連邦官報への提案掲載後30日間、規制に関する一般からの意見を募集します。意見募集期間終了後、DHSは寄せられた意見を真摯に検討しなければなりません。この検討期間に期限は設けられていませんが、同省は通常意見募集期間と同等かそれ以上の期間をかけて意見を考慮します。審査完了後、規制は最終決定され、連邦官報に掲載されます。発効日は通常、掲載後30~60日後です。規制が最終決定された場合、法的での異議申し立ての可能性が生じます。
企業からの意見は、人材市場における米国の競争力への影響を政府に伝える上で極めて重要です。今回の規制案に対する意見提出にご関心のある企業は、御社担当のフラゴメン専門家または当事務所の政府戦略・コンプライアンスグループまでご連絡ください。
2. 労働省、H-1Bビザの賃金規則の執行を強化
概要
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- 労働省は、H-1Bビザの執行強化策「プロジェクト・ファイアウォール」を開始すると発表しました。これにより、同省によるH-1B雇用主の監査・調査の頻度と深度が増すと見込まれています。
- 調査の可能性に備え、雇用主は御社のH-1B賃金慣行および関連書類が法令に準拠していることを確認してください
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問題点
労働省(DOL)は、H-1Bビザプログラムに対する同省の新たな法執行のイニシアチブとして位置付ける「プロジェクト・ファイアウォール」の開始を発表しました。プロジェクト・ファイアウォールでは、DOLが労働条件申請(Labor Condition Application - LCA)監査や調査をはじめとする執行活動をより頻繁に実施することが見込まれています。
DOLは従来より、雇用主のH-1B賃金・労働時間規則遵守状況を調査・執行する法的権限を有し行使してきました。新たなプロジェクト・ファイアウォールの一環として、DOLは労働長官に認められている調査権限の活用拡大を計画しています。これにより、外部からの苦情が提出されていない場合を含む、より広範な状況下での執行が可能となります。DOLは調査・執行結果を共有し、他政府機関のH-1B調査と連携する方針です。
雇用主がH-1Bの賃金・労働時間規則に違反しているとDOLが認定した場合、未払い賃金の返還、罰金の支払い、H-1Bプログラムからの排除など、重大な罰則が科される可能性があります。DOLと他の連邦機関との連携により、さらなる執行活動や罰則が導かれる可能性があります。
雇用主にとっての意味
プロジェクト・ファイアウォール構想は、雇用主のH-1B遵守状況に対する労働省(DOL)の調査が、より積極的かつ厳格に、そしてPublic Access Fileを含めたH-1Bビザ申請書類の内容に焦点を当てたものへと移行する可能性を示唆しています。例えば、DOLは従業員の労働条件申請書(LCA)や公衆アクセスファイル(Public Access File, - PAF)における軽微な不備を技術的違反と見なす従来の慣行から転換し、実質的な違反として扱うようになるかもしれません。
罰則の頻度と水準もエスカレートする可能性が高く、重大または故意の違反に対してはH-1Bビザ申請ができなくなるという最も厳しい罰則が科される場合もあります。最後に、プロジェクト・ファイアウォールは、DOLが企業の移民法・雇用法・刑法違反の可能性について広範な調査を開始すべき理由があると判断した場合、移民局、雇用機会均等委員会(EEOC)、及び/または司法省(DOJ)が関与する可能性のある省庁横断的な執行リスクを高めるものです。
雇用主が今すぐ行うべきこと
雇用主がH-1Bビザの賃金および書類規則を遵守していることを確認するために、今すぐ実施できる手順は次のとおりです:
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- すべての労働条件申請書(LCA)についてPAFを監査する。必要な書類がすべて完全かつ正確であることを確認する。
- 給与計算と賃金遵守を給与期間ごとに確認し、H-1B労働者の給与が対応するLCAと一致していることを保証する。
- 職種分類の慣行を標準化する。職務タイトル、SOCコード、賃金水準が申請書類と職務内容全体で一貫していることを保証する。
- 各職場にLCA通知が正しく掲示され、記録が保存されていることを保証する。
- 第三者派遣やベンダーへ派遣している場合は、ベンダーの管理監視と契約管理を強化する。企業はベンダーが自社の基準と法的要件を満たしていることを確認すべきである。
- 人事、法務、管理チームに対し、H-1Bビザ関連書類の義務、コンプライアンス問題のエスカレーション手順、政府調査への対応方法について研修を実施する。
- 監査や調査に備えた社内対応のルールを策定する。コンプライアンス責任者を指名し、コミュニケーション計画を準備し、労働省(DOL)の審査に備えて書類を整理する。
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フラゴメンは「プロジェクト・ファイアウォール」の実施状況を注視し、適宜最新情報を提供致します。御社の文書管理の慣行や方針に関する質問や社内監査をご希望の場合は、担当のフラゴメン弁護士または当事務所の政府戦略・コンプライアンスグループまでご連絡ください。
3. 国務省が第三国国民の非移民ビザ面接予約を制限する方向へ
概要
- 国務省は、非移民ビザ(NIV)申請者に対し、ごく限られた場合を除き、国籍の国または居住国でビザを申請する方針を徹底することになりました。これにより、第三国国民(Third Country National - TCN)として非移民ビザを申請するというこれまで比較的一般的に行われてきた慣行が制限されることになります。同省の発表では、国籍の国または居住国に非移民ビザを発給する米国領事館がない場合に申請可能な領事館の一覧も示されました。
- 既存のTCNの面接申請予約は原則としてキャンセルされませんが、領事館がこの新方針に対応する過程で審査強化や待機期間の長期化が生じる可能性があります。TCNビザ予約者は国籍を持つ国または居住国の領事館で再予約できますが、申請手数料の振替・返金は行われません。
問題点
国務省は先日発表した声明で、第三国国民(TCN)の非移民ビザ申請を制限するため、非移民ビザ申請者が居住国または国籍国以外の在外公館でビザを申請することをより困難にする方針を明らかにしました。以下に詳述する限定的な状況を除き、非移民ビザ(NIV)申請者は国籍国または居住国での申請が義務付けられます。本発表では、国籍国または居住国に非移民ビザを発給する米国領事館が存在しない場合の申請先リストも提示されています。
同省は8月下旬に移民ビザ面接予約についても同様の制限を発表したが、非移民ビザ保持者が自身の国籍の国や居住国以外でビザ申請をするケースは移民ビザ申請のケースに比べより一般的であるため、今回の変更の影響はより大きいと言えます。以前報告した通り、国務省はNIV面接免除プログラムの制限も進めています。
詳細
国務省の発表では、非移民ビザ申請者は国籍国または居住国の在外公館でビザ面接の予約を取るよう指示されていますが、第三国国民(Third Country National - TCN)の申請を明示的に禁止しているようには見えません。ただし発表によれば、第三国国民(TCN)の申請者はビザ面接の予約に大幅に長い時間を要し、ビザ取得の条件を満たすことがより困難になる可能性があります。TCNの面接予約は既に各在外公館の裁量でしか受け付けられていないため、今回の発表はTCNに対する追加的な保安審査や精査、ならびに拒否リスクの増加を意味する可能性があります。
国務省の発表では、同省は「原則として」既存のTCNの面接予約をキャンセルしないとしていますが、申請者が本発表を理由に既存の予約をキャンセルした場合(母国での再予約であっても)、国務省は手数料の返金や振替を行いません。さらに、既存の予約に関連するビザ処理に遅延や混乱が生じる可能性があります。新政策に関する国務省本部の詳細な指示が届くまで、大使館が面接後に承認済みのTCNの申請書を保留する可能性もあります。
母国での非移民ビザ申請方針の例外
国務省の方針発表には、A、G、NATO、C-2/3その他の外交・公用ビザに関する例外が明記されており、「人道的理由、医療緊急事態、外交政策上の理由による稀な例外」が認められる場合があるとされています。これらのカテゴリー及び例外的な状況に該当する非移民ビザ申請者は、申請場所が国籍国または居住国でのビザ申請に限定されません。
非移民ビザ発給拠点のない指定領事館
国務省は、国籍国または居住国に非移民ビザを発給する米国領事館がない外国籍者向けに、指定非移民ビザ(NIV)領事館所在地リストを発表しました。以下の国籍者(NIV発給領事館のある国に居住していない場合)は、下記記載の該当する第三国の米国領事館でNIV面接予約を行うよう指示されています:アフガニスタン(パキスタン・イスラマバード); ベラルーシ(リトアニア・ヴィリニュスまたはポーランド・ワルシャワ);チャド(カメルーン・ヤウンデ);キューバ(ガイアナ・ジョージタウン);ハイチ(バハマ・ナッソー);イラン(アラブ首長国連邦・ドバイ);リビア(チュニジア・チュニス);ニジェール(ブルキナファソ・ワガドゥグー);ロシア(カザフスタン・アスタナまたはポーランド・ワルシャワ); ソマリアおよび南スーダン(ケニア、ナイロビ);スーダン(エジプト、カイロ);シリア(ヨルダン、アンマン);ウクライナ(ポーランド、クラクフまたはワルシャワ);ベネズエラ(コロンビア、ボゴタ);イエメン(サウジアラビア、リヤド);ジンバブエ(南アフリカ、ヨハネスブルグ)。
非移民ビザ申請者とその雇用主にとっての意味
国務省は既存のTCNビザ面接予約を一般的にキャンセルしないと述べていますが、当局の発表ではTCN申請者がビザ取得の条件を満たすことがより困難になる可能性があるとしています。これは、申請者がより厳格な面接や身元調査の対象となる可能性、ビザ発給までの待機期間が長くなる可能性、あるいはビザ拒否リスクが高まる可能性を意味します。今後のビザ面接を控えたTCN申請者とその雇用主は、追加審査・遅延・不確実性の可能性を認識し、新政策の影響について担当のフラゴメン専門家と相談することを推奨します。
新政策の範囲に関するさらなるガイダンスと明確化が得られるまで、例外を認める十分な理由がない限り、NIV申請者は自国または居住国でNIV面接を予約すべきでしょう。これにより、従来よりも前倒しでの計画と柔軟な対応が必要となる可能性があります。
4. 新たなH-1B規制の影響に関するよくある質問の更新版
概要
- 米国政府当局は、既存のH-1Bビザ保持者および9月21日以前にH-1B申請書を提出した者は、2025年9月21日(日)東部夏時間午前0時1分に発効した新たなH-1B専門職制限および10万ドルの手数料の対象外であるとしました。
- 10万ドルの申請料が適用されるH-1B申請の範囲については重要な幾つかの不明点が残るものの、移民局は同一雇用主によるH-1B滞在延長申請には新申請料が課されないことを明確にしました。
- 雇用主と外国人労働者、今後のは法的動向を注視してください。大統領令への異議申し立て訴訟が予想され、裁判所命令によりH-1B非移民労働者とその雇用主に対して、事前の通知がほとんどない状態で新たな指示が下される可能性があります。
弊所作成の英語版よくある質問集は、H-1Bビザ申請に対する制限、新たに課徴される10万ドルの費用、国益ベースの例外条件、そして海外渡航や米国大使館・領事館でのビザ申請への影響について解説をしています。こちらから、アクセスしてください。